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かお
作品ID53696
著者李 箱
文字遣い新字旧仮名
底本 「李箱作品集成」 作品社
2006(平成18)年9月15日
初出「朝鮮と建築 第十集第八号」朝鮮建築会、1931(昭和6)年8月
入力者坂本真一
校正者hitsuji
公開 / 更新2019-09-14 / 2019-08-30
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 ひもじい顔を見る。

 つや/\した髪のけのしたになぜひもじい顔はあるか。

 あの男はどこから来たか。
 あの男はどこから来たか。

 あの男のお母さんの顔は醜いに違ひないけれどもあの男のお父さんの顔は美しいに違ひないと云ふのはあの男のお父さんは元元金持だつたのをあの男のお母さんをもらつてから急に貧乏になつたに違ひないと思はれるからであるが本当に子供と云ふものはお父さんよりもお母さんによく似ていると云ふことは何も顔のことではなく性行のことであるがあの男の顔を見るとあの男は生れてから一体笑つたことがあるのかと思はれる位気味の悪い顔であることから云つてあの男は生れてから一度も笑つたことがなかつたばかりでなく泣いたこともなかつた様に思はれるからもつともつと気味の悪い顔であるのは即ちあの男はあの男のお母さんの顔ばかり見て育つたものだからさうであるはづだと思つてもあの男のお父さんは笑つたりしたことには違ひないはづであるのに一体子供と云ふものはよくなんでもまねる性質があるにもかゝはらずあの男がすこしも笑ふことを知らない様な顔ばかりしてゐるのから見るとあの男のお父さんは海外に放浪してあの男が一人前のあの男になつてもそれでもまだまだ帰つて来なかつたに違ひないと思はれるから又それぢやあの男のお母さんは一体どうしてその日その日を食つて来たかと云ふことが問題になることは勿論だが何はとれもあれあの男のお母さんはひもじかつたに違ひないからひもじい顔をしたに違ひないが可愛い一人のせがれのことだからあの男だけはなんとかしてでもひもじくない様にして育て上げたに違ひないけれども何しろ子供と云ふものはお母さんを一番頼りにしてゐるからお母さんの顔ばかりを見てあれが本当にあたりまへの顔だなと思ひこんでしまつてお母さんの顔ばかりを一生懸命にまねたに違ひないのでそれが今は口に金歯を入れた身分と時分とになつてももうどうすることも出来ない程固まつてしまつているのではないかと思はれるのは無理もないことだがそれにしてもつやつやした髪のけのしたになぜあの気味の悪いひもじい顔はあるか。
一九三一、八、一五



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