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且8氏の出発
しゃ8しのしゅっぱつ |
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作品ID | 53719 |
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著者 | 李 箱 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「李箱作品集成」 作品社 2006(平成18)年9月15日 |
初出 | 「朝鮮と建築 第十一集第七号」朝鮮建築会、1932(昭和7)年7月 |
入力者 | 坂本真一 |
校正者 | 春日井ひとし |
公開 / 更新 | 2018-01-11 / 2018-01-11 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
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亀裂の入つた荘稼泥地に一本の棍棒を挿す。
一本のまま大きくなる。
樹木が生える。
以上 挿すことと生えることとの円満な融合を示す。
沙漠に生えた一本の珊瑚の木の傍で豕の様なヒトが生埋される[#「生埋される」は底本では「生理される」]ことをされることはなく 淋しく生埋する[#「生埋する」は底本では「生理する」]ことに依つて自殺する。
満月は飛行機より新鮮に空気を推進することの新鮮とは珊瑚の木の陰欝さをより以上に増すことの前のことである。
輪不輾地 展開された地球儀を前にしての設問一題。
棍棒はヒトに地を離れるアクロバテイを教へるがヒトは了解することは不可能であるか。
地球を掘鑿せよ。
同時に
生理作用の齎らす常識を抛棄せよ。
一散に走り 又 一散に走り 又 一散に走り 又 一散に走る ヒト[#「一散に走る ヒト」は底本では「一散に走るヒト」] は 一散に走る ことらを停止する。
沙漠よりも静謐である絶望はヒトを呼び止める無表情である表情の無智である一本の珊瑚の木のヒトの[#挿絵]頸の背方である前方に相対する自発的の恐懼からであるがヒトの絶望は静謐であることを保つ性格である。
地球を掘鑿せよ。
同時に
ヒトの宿命的発狂は棍棒を推すことであれ*。
*事実且8氏は自発的に発狂した。そしていつの間にか且8氏の温室には隠花植物が花を咲かしていた。涙に濡れた感光紙が太陽に出会つては白々と光つた。