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『春の岬』序詩
『はるのみさき』じょし
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「三好達治全集第一卷」 筑摩書房
1964(昭和39)年10月15日
初出「春の岬」創元選書、創元社、1939(昭和14)年4月
入力者kompass
校正者榎木
公開 / 更新2018-11-25 / 2018-10-24
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


わが古きまづしきうたのたぐひここにとり集へてひと卷のふみをばなしつ、名づけて春の岬といふ、ふみのはじめに感をしるして序を添へよとは人の命ずるところなり、あな蛇足をしひたまふものかな、よしやつたなかるともわがうたのかずかずうちかへしわが感をのべたるものを、とてその夜わびしらに率然とおのれつぶやけるつぶやき

わが若き
十とせあまりのとしつきの
いつしかにはやすぎゆきて
あとこそなけれ
そこばくのうたはのこりつ
そのなかばいまここにあり
ながき夜の
燈火のもとにつどへて
二つ三つ手にとりあげて
ひるがへし見ればつたなし
よみかへすさへやものうし
宿かりのかつてやどりし
貝なりとこの貝がらの
童べさび
うづわの底をさしのぞけ
あるはただ小さき闇のみ
磯の香のもしやふとだに
わが鼻の頭かすめて
あればあれうれしからまし
なくもまたせんなしなどと
考へてひとりなだめて
茶をすすり煙草ふかしつ
はたうつうつと
かなしびのたへがたかりし
すぎし日をおもひかへしつ
(かのひとも老いたまひけむ)
山川のうつくしかりし
國々のさまをしのびつ
(錢もなき旅もせしかな)
讀む人よあはれと思へ
わがうたはそれらのかたみ
おほかたは情感うせて
おのれにはあぢきなけれど
ただたのむ
いささかのまことを陳べし
遠き日の思出はあれ



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