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作品ID53797
著者金 鍾漢
文字遣い新字旧仮名
底本 「〈外地〉の日本語文学選3 朝鮮」 新宿書房
1996(平成8)年3月31日 
初出「国民文学」1942(昭和17)年4月号
入力者坂本真一
校正者hitsuji
公開 / 更新2020-02-28 / 2020-01-24
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


きみは 半島から来たんぢやないですか
だうりで すこし変つた顔をしてゐると思つた
でも そんな心細い思ひをすることはないですよ
ほら 松花江の上流からも はろばろ
南京の街はづれからも 来てゐるではないか
スマトラからも ボルネオからも いまには
重慶の防空壕からも やつてくるでせう
では みんな並んで下さい おお
砲口のやうだ 整列されてゐる口の横隊
それは 待つてゐる 待ちあぐんでゐる
タクトの指さす方向へ 未来へ
やがて 声の洪水が発砲されるでせう
くりひろげられた 煙幕のやうに
余韻は渦巻いて 渦巻いて流れるでせう

このステエジの名を きみは知つている
このステエジの名を ぼくも知つている

ほら タクトが上つたではないか 指揮刀のやうだ
もはや 私にはいふべき言葉がない
ただ 歌ふことだけが残されてゐる 声をかぎりに
ただ 歌ふことだけが残されてゐる



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