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一枝について
ひとえだについて
著者金 鍾漢
文字遣い新字旧仮名
底本 「〈外地〉の日本語文学選3 朝鮮」 新宿書房
1996(平成8)年3月31日 
初出「国民文学」1942(昭和17)年1月号
入力者坂本真一
校正者hitsuji
公開 / 更新2019-09-27 / 2019-08-30
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


年おいた山梨の木に 年おいた園丁は
林檎の嫩枝を接木した
研ぎすまされたナイフををいて
うそさむい 瑠璃色の空に紫煙を流した
そんなことが 出来るのでせうか
やをら 園丁の妻は首をかしげた

やがて 躑躅が売笑した
やがて 柳が淫蕩した
年おいた山梨の木にも 申訳のやうに
二輪半の林檎が咲いた
そんなことも 出来るのですね
園丁の妻も はじめて笑つた

そして 柳は失恋した
そして 躑躅は老いぼれた
私が死んでしまつた頃には
年おいた 園丁は考へた
この枝にも 林檎が実るだらう
そして 私が忘られる頃には

なるほど 園丁は死んでしまつた
なるほど 園丁は忘られてしまつた
年おいた山梨の木には 思出のやうに
林檎のほつぺたが たわわに光つた
そんなことも 出来るのですね
園丁の妻も いまは亡かつた



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