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作品ID | 53807 |
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著者 | 織田 作之助 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「俗臭 織田作之助[初出]作品集」 インパクト出版会 2011(平成23)年5月20日 |
初出 | 「映画評論 第一巻四号」1944(昭和19)年4月 |
入力者 | kompass |
校正者 | 小林繁雄 |
公開 / 更新 | 2013-07-30 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 65 ページ(500字/頁で計算) |
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『四つの都』の起案より脱稿まで
『四つの都』は川島雄三氏の第一回演出作品であるが、同時に私にとっても第一回シナリオである。更に言うならば、川島氏も私も共に大正生れである。つまりお互いの感受性、物の考え方に世代的な共通点を持っているのだ。『四つの都』にいくらか新しい意義があるとすれば、この二つの点ではなかろうかと私は考えている。
私は小説家である。小説家がシナリオを書くという例しは、最近は稀である。私自身もシナリオを依頼されようとは殆んど考えたことはなかった。それ故、大船撮影所企画部の海老原氏より、川島氏の第一回作品のシナリオを書いてくれまいかという話があった時、私は正直なところ驚いた。海老原氏が川島氏とそれから同じく新人演出家の池田浩郎氏と一緒に来阪されて、四人で語り合い、具体的な注文を伺ったが、それは、私の「清楚」という新聞小説(大阪新聞に連載した)を映画化する計画があるが、条件として原作者の私自身の手でシナリオ化してほしい、それがいやなら、新しくオリジナル・シナリオを書いてほしい、という注文だった。つまり、是が非でもシナリオを一本書くべしというのっぴきならぬ命令である。いわば私は見込まれたのである。私はことの意外に驚きながら、見込まれた理由を訊してみた。第一回演出作品に素人のシナリオを選ぶことは冒険に過ぎやしないだろうか、それに私のシナリオ・ライタとしての適不適も未知数(かつて溝口氏のために「わが町」のストーリを書いたことはあるにせよ)であるし、恐らく大船の内部でも異論はあるのではなかろうかと。
ところが訊いてみると、私の小説には映画的な話術と感覚があるらしいのだ。だから、シナリオも書けないことはあるまいとのおだてであった。なるほどそう言われてみれば、かつて親友杉山平一君より、君のあの小説のあそこはシナリオだねといわれたこともあったっけと、私はあっという間にこのおだてに乗ってしまった。私はその場で答えた。書いてみましょう、しかし「清楚」一本では映画にならないかも知れないと。
ところが、おかしいことに大映、東宝からも同じように「清楚」の映画化の話があり、「清楚」は映画化にならないという私の考えは間違っていたらしかった。果して脱稿したシナリオ『四つの都』には「清楚」の話が六分ノ一はいったという結果になった。さて、「清楚」の話とは何か。簡単にいえば、若い帰還軍医中尉の帰還直後一週間の行動である。私はこの青年を借りて、銃後を明るくさせるほぼ理想的な現代の青年の一つの型を示してみた。ひとは彼を見て、微笑してほしいと私は希望している。微笑は叡智の表現である。私はこの青年の知性というものを、いわゆる知性的な言動を一切描かぬということによって逆説的に表現してみようと思った。
さて、残る六分ノ五には何がはいっているか。まず『新潮』三月号に発表した拙作「木の都」…