えあ草紙・青空図書館 - 作品カード
楽天Kobo表紙検索
夕の賦
ゆうのふ |
|
作品ID | 53836 |
---|---|
著者 | 末吉 安持 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「沖縄文学選 日本文学のエッジからの問い」 勉誠出版 2003(平成15)年5月1日 |
初出 | 「文芸界 第二巻第二号」1903(明治36)年8月 |
入力者 | 坂本真一 |
校正者 | フクポー |
公開 / 更新 | 2019-03-02 / 2019-02-22 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
広告
広告
仰げばみ空青く澄み、金星遙に霑ひて、神秘の御幕長く垂れ、闇の香襲々屋根に戸に、夕となりぬ月出ぬ。
夕となりぬ月出ぬ、雲のみ無心に靉靆て、烏は北枝の巣に帰り、狐は隣の穴を訪ひ、螢は燃えて河堤。
我もまた有情の男、若かうて夕に得堪へめや、詩ぐるほしき戸を避けて、倚るは誰が十九のやわ肌、力ゆらぎてあな強や。
夕となりぬ月出でぬ、ふりさけ見ればみ空には、自然の扉開かれて、愛と自由の彩眩ゆく、懸想希望を富ましむる。
嬉しからずやなうとのみ、やわ乳と胸と口接けて、依々なる薫りを散ぜむか、何を踟躊の醜文字と、大なる芸術ぞ君や我。
大なる芸術ぞ君や我、あゝ誰か我等を縛めて、断頭台を令ずとも、価値あるものはこれ一つ、手放べきやなう乳房。
夕となりぬ月出でぬ、臥せよ抱けよすゝれ盃、熱せよ乳房小唇、誰れか自然の御芸匠を、かいまみ笑ふ痴者あらむ。