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ホッキ巻
ホッキまき |
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作品ID | 53901 |
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著者 | 知里 真志保 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「和人は舟を食う」 北海道出版企画センター 2000(平成12)年6月9日 |
初出 | 「北海道風物誌」楡書房、1956(昭和31)年8月 |
入力者 | 川山隆 |
校正者 | 雪森 |
公開 / 更新 | 2015-12-01 / 2015-09-01 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
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北海道名産の一つに北寄貝がある。標準和名はウバ貝であるが、今はホッキ貝というのが通り名になってしまった。この名の語源については、北の海にしかない貝だから北寄貝だと思っている人もある様だが、北方特産の動植物の名称によくある様に、これももとはアイヌ語から来た名称である。アイヌ語ではこれをポッキセイ(pok-sei)と云い、ポッキは女性の象徴、セイは貝のことである。半開きになった貝殻の間から俗にサネと称する舌状物を突き出している時の様子がすこぶる女性の何かを思わせるものがあるというのでこの名がある。そう云えば日本語のウバ貝なども案外語原はその辺に胚胎しているのかもしれない。この貝は罐詰になって東京辺のデパートにも出ている様だが、ホッキの味は何と云っても生肉の刺身が一番だということになっている。
ホッキ貝は東北から北海道樺太にかけて寒海に分布し外洋に面した砂泥の浅海に棲息する。これを獲るには、マンガンと称する木の胴に鉄の爪を植え並べた熊手の親分みたいな器械を磯舟に積んで沖へ出ていき、適当な場所を選んでそれを海中に投下し長いロープで海底をひくのである。すると鉄の爪が海底の泥の中から貝を掻き集め、掻き集めた貝は、マンガンの進行に連れて後方に取りつけてある網袋の中へ自分から飛びこんで行く様な仕掛になっている。マンガンは重いのでそれを動かすために舟の上で轆轤を巻く。ホッキ漁のことを一般に漁師はホッキまきと云っているが、それは轆轤を巻いてホッキを獲るからである。
夏から秋にかけて室蘭線を汽車で通ると、鷲別幌別あたりの沖に点々と黒豆を撒いた様に浮んでいるのはホッキまきの磯舟である。ホッキまきは例年8月15日に始まって翌年の4月15日に終ることになっている。
〈『北海道風物誌』楡書房 昭和31年8月〉