えあ草紙・青空図書館 - 作品カード
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![]() あこうみさきえいそうしゅう |
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作品ID | 53941 |
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著者 | 桜間 中庸 Ⓦ |
文字遣い | 旧字旧仮名 |
底本 |
「日光浴室 櫻間中庸遺稿集」 ボン書店 1936(昭和11)年7月28日 |
入力者 | Y.S. |
校正者 | 富田倫生 |
公開 / 更新 | 2011-12-14 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
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――カムバスを立つ――
岳の上はひたに靜もり妹は合歡の木の下にカムバスを立つ
妹は默して立てりひたすらに海を描かむ心一つに
帆の形面白しなど語らひつ雜草の丘にデツサンをする
――貨物船――
やゝ沖に貨物船はとまりたりデツキを動く人の氣配す
貨物船の投錨の音たかだかと朝の海にひろごりわたる
蟲にたかる蟻の如くに船をめぐり塩運ぶ船集りてきぬ
凪なれど海に寫らず貨物船の朱の船腹はなかばあせたり
――潮光園など――
潮光園對鴎館など好ましき旅館を持つよ御崎の海は
ベランダの朝のてすりにそと凭りて海を見居たる少女を想ふ
潮光園のベランダはよろしやゝ沖に眞赤な貨物船の點景を持つ
赤き屋根白きベランダたへまなく青き海風さやさやと入る
――鳶――
海にすめば海になれたり鳶三羽怒濤の岩に降りて動かず
曇り日の空は低くして南風に吹かれて鳶はその空に居り
蝉をついばみ鳶はましぐら昇りゆくその猛しさは心にくきや
――猿數多鐵柵の中に飼ひてあれば――
鐵柵に猿は並びぬ眼をむきて手をさしのばし物乞ふかたち
怒り悲しみ恐れはすれど猿なれば笑ひを何處かに忘れたる如し
餌に寄りて爭ふかたち猿なればわれら笑ふもわれらも似たり