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奪われてなるものか
うばわれてなるものか |
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作品ID | 54050 |
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副題 | ――施療病院にて―― ――せりょうびょういんにて―― |
著者 | 今野 大力 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「日本プロレタリア文学集・39 プロレタリア詩集(二)」 新日本出版社 1987(昭和62)年6月30日 |
初出 | 「文学新聞」1932(昭和7)年7月15日 |
入力者 | 坂本真一 |
校正者 | 雪森 |
公開 / 更新 | 2014-06-09 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
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君はおれの肩を叩いてきいてくれる
君は親しげなまざしでおれを見る
おお君はいつもおれの同志
おれたちの力強い同志
しかしおれには今
君の呼びかけたらしい言葉がきこえない
君はどんなにかあの懐かしい声で
留置場からここへ帰って来たおれに
久方ぶりで語ってくれたであろうに
おれには君の唇の動くのが見えるだけだ
パクパクとただパクパクと忙しげな
静けさ、全く静けさイライラする静けさ
扉の外に佇っていたパイの跫音も聞えない
何と不自由な勝手のちがった静けさか
音響の全く失われたおれの世界
自分の言葉すら聞えず忘れてゆこうとしている
おれは君と筆談だ、君は書く
――おれたちは来る六月十九日の文化連盟の
拡大中央協議会を攻撃の中に開催すべく闘っている。
よし君の言うのはわかる
――おれの耳を奪ったのはあいつ××だ
おれは奴らのテロで耳を奪われたが
××は腕を折られた、足腰も立てなくなってる。
――そうだ奴らはおれたちの側の耳を奪い
手足までも奪ってしまおうとしているのだ
おれたちはそれを奪い返そう
引ったくってやろう
奪われてなるものか
それが後に残った者達の重大な仕事だ。
おれは耳を奪われたしかし
君の文字が伝えてくれるおれたちプロレタリアの側の熱意が
こんなにハッキリわかるのが実にうれしい
おれには何時知らず熱い涙が目尻を流れていた
――おお おれたちの同志しっかり!
おれもやるぞ!
(一九三二年六月作『文学新聞』同年七月十五日付に発表)