えあ草紙・青空図書館 - 作品カード
楽天Kobo表紙検索
![]() とうどをかむ |
|
作品ID | 54053 |
---|---|
著者 | 今野 大力 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「日本プロレタリア文学集・39 プロレタリア詩集(二)」 新日本出版社 1987(昭和62)年6月30日 |
初出 | 「プロレタリア文学」1932(昭和7)年2月号 |
入力者 | 坂本真一 |
校正者 | 雪森 |
公開 / 更新 | 2014-06-15 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
広告
広告
土に噛りついても故国は遠い
負いつ 負われつ
おれもおまえも負傷した兵士
おまえが先か
おれが先か
おれもおまえも知らない
おれたちは故国へ帰ろう
おれたちは同じ仲間のものだ
お前を助けるのは俺
俺を助けるのはお前だ
おれたちは故国へ帰ろう
この北満の凍土の上に
おれとお前の血は流れて凍る
おお赤い血
真紅のおれたちの血の氷柱
おれたちは千里のこなたに凍土を噛む
故国はおれたちをバンザイと見送りはしたが
ほんとうに喜こんで見送った奴は
俺達の仲間ではない
おれたちは屠殺場へ送られてきた
馬
豚
牛だ!
いつ殺されるかも知らない
おれたちは今殺されかけている
おれたちは故国へ帰ろう
土に噛りついても故国は遠い
だがおれたちは故国へ帰ろう
戦争とはこういうものだ
戦地ではおれたちの仲間がどうして殺されたか
あんな罪もない者を
殺すのがどんなに嫌でも
何故殺せと命ずるのか
殺す相手も
殺される相手も
同じ労働者の仲間
おれたちにはいま仲間を殺す理由はない
この戦争をやめろ
兵士は故国へ
おれたちの仲間
中国の仲間
そしてソヴェート・ロシアの仲間の
共同の戦線こそ勝利を固めよ
おお おれたちは今銃創の苦るしさに凍土を噛み
傷口から垂れた血の氷柱を砕きつつ
故国の仲間に呼びかけたい
おれたちは故国へ帰ろう
お前もおれもがんばろう
(『プロレタリア文学』一九三二年二月号に発表『今野大力・今村恒夫詩集』改訂版を底本)