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死ぬる迄土地を守るのだ
しぬるまでとちをまもるのだ
作品ID54063
著者今村 恒夫
文字遣い新字新仮名
底本 「日本プロレタリア文学集・39 プロレタリア詩集(二)」 新日本出版社
1987(昭和62)年6月30日
初出「プロレタリア」1930(昭和5)年12月号
入力者坂本真一
校正者雪森
公開 / 更新2014-06-27 / 2014-09-16
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

会場にはぎっしり聴衆がつめていた。
群集は二時間も前から押しよせた。
子供もいた女もいた老人もいた
青年達が警備した。
場外にはなお聴衆が溢れていた
「帰れ」顎紐が号令する――
だが顎紐糞喰えだ――
組合の弁士の演説をきかないで誰がおめおめ帰れるか
今日の演題を見ろ

僧侶やブルジョアの学校のような俺達に縁遠い事ではない――
俺達の生活についての話だ
――食えない俺達のそのままの声だ――
――立入禁止をはね飛ばせ――
――資本家が如何に俺達をしぼったか
……農民の生活について――

場外も場内もよくよく怒気が唸っていた。
何千年来搾られた精神の爆発だ。
青年も壮年も老年も……あどけない
子供の顔もひん曲っていた。
コブシはサザエのように握られていた。
いきづまるような瞬間――にじみ出る汗場外の大衆も耳をすませてきいていた――声だけでもきこえるのだ
押し殺したように黙って待っている
みんなは心で叫んでいた。
――早く俺達の苦しみを貧乏を搾取を
壇上で爆発させてくれ――
――地主の不正をあばいて呉れ――

弁士が立った――われるような拍手――どよめく会場――
だがたった一分間……言葉で十語にもみたぬ。
我々小作人が……そこで中止だ。――
一千の目が矢のように署長に敵視を送る。
怯む署長――が奴は直ぐ番犬性をとり返す。
つづいて立つ――そこでまた中止――
――お上は絶対中立だ――信じていた自作やプチブルの聴衆迄が中立なんてあるものかお上は奴等と一体だ。――
たつ奴も立つ奴も中止――中止――口に猿轡をかませるのだ
――俺達の歯はギシギシなった――こぶしはいたい迄かたまった。
署長の言葉が反抗と憎悪をたぎらせて行った。
最後の一人が立った。憤激に上気した同志の顔――火のような言葉――中止――検束
圧縮された聴衆の反抗が爆発した。
真赤な火をふく活火山のように
会場の内外に溢つる怒罵、ふんぬの声――
署長横暴だ――署長を殺せ――
弁士を渡すな――俺達貧乏人の闘士を……
会場の内外が鳴動した。

解散――解散――忠勤をぬきんでるのはここぞと許り署長が連呼した――聴衆の憤怒
解散解散――それは燃ゆる火熱に油をかけた――
署長を殺せ署長を殺せ――パイとポリ公をふみ殺せ――
地主と同様――奴等も敵の片割れだ――
下駄は礫になった。武器になった。
幾千の拳は署長に向って突喊した。
血――叫喚――絶叫――
署長とパイ公が抜剣した。――が剣は直ぐ奪われた。
署長とパイ公が殺された。殺された屍をふむける殴る思うさま憤怒を叩きつける――どっと打ち上る勝鬨の烽火――
デモダデモダ――口々に云った。組合の闘士が立って激励演説をおっ始めた。
リンカンなしの演説だ――火のような熱弁、弾丸のような言葉俺達は外へ流れ出た。――腕を組んで地主の家へ押し出した。
――あわてた地主は手を合せた――
――訴…

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