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横顔
シルーエット |
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作品ID | 54069 |
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著者 | 上田 進 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「日本プロレタリア文学集・39 プロレタリア詩集(二)」 新日本出版社 1987(昭和62)年6月30日 |
初出 | 「戦旗」1930(昭和5)年6月号 |
入力者 | 坂本真一 |
校正者 | フクポー |
公開 / 更新 | 2018-02-24 / 2018-01-27 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
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1
壊滅した――と言う
そうかも知れないと思う
健在だ――と言う
そうかも知れないと思う
地下に追込められたものは
益々深く地下に潜り込んだのだ
俺達にはてんで見当がつかなくなったのだ
2
汽笛の白い蒸気が
灰色の空にちぎれ飛んだ
午前六時の川風が
雪交りの雨を赤煉瓦に叩きつけ
脂染みた硝子窓をゆすぶった
肩をすぼめた俺達の行列が
鉄門の外にまだ長くつづいていた
3
泥んこの通路がやけに癪に触る
癪に触るから大股で歩いて行く
口の開いた護謨長の鼻先に
ビラが落ちて来た
顔を上げると頭の上に
赤や黄のビラが舞っていた
風が一吹き強く吹いて
霙の中にビラが一段と激しく散った
むこうを見た
厚いコンクリの塀が立ってるだけだった
4
何処から舞って来たのか?
どんな人が撒いたのか?
俺達は知らなかった
「俺達の中に居る人かも知れぬ」
――だが、たしかに、今、此の手に
俺達はビラを握っている
日本共産党のビラを!
これは夢じゃない
そら、ひっぱたかれたら痛かろうが?
本当だ!
5
衣兜じゃ駄目だ
肌へつけときな
よし……いやもう一度見て
左の下の隅の五つの文字
見つめていると
レーニンの顔になって
笑い出して
躍り出して
ぼやけた……
いけねえ、涙で鼻がつまって
6
ピチャピチャ……急に足音が高くなり
行列が騒がしくなった
俺達は胸を張って工場に入ってった
俺達はプロレタリアだぜ!
7
眼の底に染みついた
頭の心に焼きついた
この五つの文字――それが
胸の中を引掻きむしる
8
お出でなすったな、監督さん
パイ公連れてさ。
出すもんかい、
これあ俺達の御守だ。
………………
へん、ざまア見やがれだ!
9
俺達は見た
俺達は知った
俺達の党は健在だ!
俺達はやけに嬉しいんだ
(おお、その胸に抱かれているのは
地下に健在な党がチラリと見せた
小さい四角な、赤い横顔!)
(一九三〇年三月六日作 『戦旗』同年六月号に発表 一九三一年八月戦旗社刊『一九三一年版日本プロレタリア詩集』を底本)