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海よ
うみよ
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「三好達治全集第一卷」 筑摩書房
1964(昭和39)年10月15日
初出「婦人公論」1939(昭和14)年8月
入力者kompass
校正者杉浦鳥見
公開 / 更新2019-02-17 / 2019-01-29
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


門を閉ぢよ 心を開け……
それで私は 表を閉めて
裏の垣根を越えてきた
蜜柑畠の間を拔けて
海よ お前の渚に
かうして私は一人できた
ああ陽炎のもえる初夏の小徑
眩めく砂の上で
海よ 私は何を考へよう
思出のやうにうすぐもつて
藍鼠色にぼんやりした 遙かなお前の水平線
私はお前に向きあつて
私は世間に背中を向ける
門を閉ぢよ 心を開け……
それで私は表を閉めて
裏の垣根を越えてきた
海よ お前の渚に
かうして私は腰を下ろし
かうして私は甲羅を干す
天と 地と
岬の鼻の鴉の群れと
膨らみ上る ああまるく高く膨らみ上るお前の浪の數々と
胸のしんにずんと響く そのお前の歌聲と
きらめくばかり眞白な 季節の新らしいそれらの帆の
二つ三つと
海よ
海よ
やがて私は旅だつだらう
海よ
お前のこの渚からも
やがて私は旅だつだらう
人の不實を憤ることも
自らの眞實に醉ふことも
その時私はやめるだらう
その日がやがて來るだらう
ああその
お前と別れる日のために
今日私はお前を謳ひ
今日私はお前と遊ぶ
お前の渚に
私は今日お前と遊ぶ



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