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『猿面冠者』あとがき
『さるめんかんじゃ』あとがき
作品ID54173
著者太宰 治
文字遣い旧字旧仮名
底本 「太宰治全集11」 筑摩書房
1999(平成11)年3月25日
初出「猿面冠者」現代文学選23、鎌倉文庫、1947(昭和22)年1月20日
入力者小林繁雄
校正者阿部哲也
公開 / 更新2012-02-21 / 2014-09-16
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


所收――「猿面冠者」「ダス・ゲマイネ」「二十世紀旗手」「新ハムレツト」

 このたびの選集には、大戰中に再版できなかつた作品だけを收録した。さうして、この選集一つお讀みになれば、太宰といふのはこの十年間、一體どんな事に苦しみ努めて來た作家か、たいていおわかりになれるやうに工夫して編輯した。
 最後の「新ハムレツト」は、新しいハムレツト型の創造と、さらにもう一つ、クローヂヤスに依つて近代惡といふものの描寫をもくろんだ。ここに出て來るクローヂヤスは、昔の惡人の典型とは大いに異り、ひよつとすると氣の弱い善人のやうにさへ見えながら、先王を殺し、不潔の戀に成功し、さうして、てれ隱しの戰爭などをはじめてゐる。私たちを苦しめて來た惡人は、この型のおとなに多かつた。
 この作品の出版當時、これに對する文壇の評論の大半は、クローヂヤスのこの新型の惡を見のがし、正宗白鳥氏なども、このクローヂヤスに作者が同情してゐるとさへ解されてゐたやうである。さらにこのたび、ひろく讀者に、再吟味を願ふ所以である。
昭和二十年冬。



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