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兄弟のやまばと
きょうだいのやまばと
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 4」 講談社
1977(昭和52)年2月10日
初出「教育の世紀 4巻1号」1926(大正15)年1月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者へくしん
公開 / 更新2020-07-08 / 2020-06-27
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

「お母さん。これから、また寒い風が吹いてさびしくなりますね。そして、白く雪が野原をうずめてしまって、なにも、私たちの目をたのしませるようなものがなくなってしまうのですね。なんで、お母さんは、こんなさびしいところにすんでいたいのでしょうか。」と、子ばとは、母親に向かっていいました。
 いままで輝かしかった山も、野原も、もはや、冬枯れてしまいました。そして、哀れな、枝に止まったはとの羽にはなお寒い北風が吹いているのであります。
「おまえ、こんないいところがどこにあろう。ここにすんでいればこそ安心なんだよ。それは、もっと里に近い野原にゆけば食物もたくさんあるし、おまえたちの喜びそうな花や、流れもあるけれど、すこしも油断はできないのだ。ここにはもう長年いるけれど、そんな心配はすこしもない。それに山には、赤く熟した実がなっているし、あの山一つ越せば、圃があって、そこには私たちの不自由をしないほどの食物も落ちている。こんないいところがどこにあろう……。けっして、ほかへゆくなどと思ってはならない。」と、母親は、子ばとたちをいましめたのであります。
 兄弟の子ばとは、はじめのうちは、母親のいうことをほんとうだと思って、従っていました。しかしだんだん大きく、強くなると、冒険もしてみたかったのであります。
 ある、よく晴れた日のこと、兄弟の子ばとは母の許しを得て山を一つ越して、あちらの圃へゆくことにしました。これまでは、母親がついていったのでした。けれど、めったに、そこには、人の影を見なかったので、母親は、あすこへならば、たとえ二人をやってもだいじょうぶであろうと安心したからであります。
 二羽の子ばとは、朝日の光を浴びて、巣を離れると、空を高らかに、元気よく飛んでゆきました。そしてやがて、その影を空の中へ没してしまった時分、母親は、ため息をもらしました。
「子供たちの大きくなるのを楽しみにして待ったものだが、大きくなってしまうと、もはや私から離れていってしまう……。」
 そして、親ばとは、独り、さびしそうに、巣のまわりを飛びまわって、やがて子供たちの帰るのを待っていたのであります。
 二羽の子ばとは、母親の心などを思いませんでした。
「兄さん、もっと、どこかへいってみようじゃありませんか。里の方へゆかなければ、いいでしょう……。」と、弟がいいました。
「そうだな。海の方へゆこうか……。そして、あんまりおそくならないうちに帰れば、お母さんにしかられることもあるまい。」と、兄は、さっそく、合意しました。二羽の子ばとは、自分たちのすることをすこしもよくないなどとは思っていませんから、すぐに、青い空を翔けて海の方へと飛んでゆきました。
 ようやく、あちらに、輝く海が、笑っているのが、目にはいった時分、どこからか、自分たちを呼ぶ、はとの声がきこえてきました。
「兄さん、どこかで、だれか…

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