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ねずみとバケツの話
ねずみとバケツのはなし
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 4」 講談社
1977(昭和52)年2月10日
初出「赤い鳥」1925(大正14)年7月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者へくしん
公開 / 更新2020-08-09 / 2020-07-27
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 町裏を小さな川が流れていました。川というよりは、溝といったほうがあたっているかもしれません。家々で流した水が集まって、一筋の流れをなしているのでありました。
 ねずみは、その流れの岸に穴を掘って、もう長い間、そのところにすんでいました。ほかのねずみたちが、みんな家々の天じょう裏や、縁の下などに巣を造っているのに、このねずみばかりは、こうして、外のこんなむさくるしいところに、どうしてすんでいるのだろうという疑いをもたれたのですが、それには子細のあることでした。
 この川の淵には、いたるところにごみためがあって、いろいろなものが捨てられるからではありませんでした。ねずみの食べられそうなものは、犬やからすが先にきて、たいていそれを食べてしまうのでありましょう。
 ねずみがここにすんだのは、この場所が安全だと思ったのにほかなりませんでした。
 それは、ねずみがもっと小さかった時分のことであります。彼は、ほかの友だちといっしょに、やはり、町の一軒の家にすんでいました。ある夜のことでありました。彼は、みんなから離れて、ひとり台所へ出てきました。たなの上には、大根や、芋などがざるの中にいれて、のせてありました。また、戸だなの中には、煮た魚や、豆などがはいっていました。すべてが、敏感なねずみの鼻でわかったのであります。
「人間は、りこうでずるいから、気をつけなければならない。」と、日ごろから聞いていましたから、ねずみは注意を怠りませんでした。
 彼は、音をたてないように、戸だなをかじってみようかと思ったが、それよりは、まず無難の、たなの上にのっている芋を食べようと思いました。
 彼は、そこへ上がって、芋を食べました。小さなねずみの腹は、じきにいっぱいになってしまいました。腹がいっぱいになると、もう彼は、戸だなの中のものを食べたいなどという欲を起こしませんでした。それよりか、ただ一口水を飲みたかったのです。
 水を飲んで自分たちの巣へ帰ろうと考えながら、彼は、ながしの中へ降りてきました。そこには、バケツがありました。バケツの中には、多分水がはいっているだろう……彼は、注意をして、バケツの縁に上がって、中をのぞいてみました。
 あたりは、暗かったけれど、バケツの中には、はたして、水がなみなみと七分めのところまで満たされているのを悟りました。ねずみは、どうかして、くびを伸ばして、水を飲みたいと思いました。それは、ほんのわずかばかりの距離ではありましたけれど、この小さな動物にとっては、容易のことではなかったのです。
 彼は、できるだけ下へくびを伸ばしました。まさしく、それは冒険でありました。しかしいくら、しっかりとつかまっていても、バケツの縁は円く、それに金属でつめの立ちようがなかったから、ねずみは、足をすべらすと同時に前のめりになって、水の中へ落ちてしまいました。ねずみは、水の…

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