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貧しき信徒
まずしきしんと
作品ID542
著者八木 重吉
文字遣い新字新仮名
底本 「八木重吉詩集」 白凰社
1969(昭和44)年9月20日
入力者j.utiyama
校正者丹羽倫子
公開 / 更新1998-08-20 / 2014-09-17
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

母の瞳

ゆうぐれ
瞳をひらけば
ふるさとの母うえもまた
とおくみひとみをひらきたまいて
かわゆきものよといいたもうここちするなり

お月見

月に照らされると
月のひかりに
こころがうたれて
芋の洗ったのや
すすきや豆腐をならべたくなる
お月見だお月見だとさわぎたくなる

花がふってくると思う

花がふってくると思う
花がふってくるとおもう
この てのひらにうけとろうとおもう



つまらないから
あかるい陽のなかにたってなみだを
ながしていた



こころがたかぶってくる
わたしが花のそばへいって咲けといえば
花がひらくとおもわれてくる



ひかりとあそびたい
わらったり
哭いたり
つきとばしあったりしてあそびたい

母をおもう

けしきが
あかるくなってきた
母をつれて
てくてくあるきたくなった
母はきっと
重吉よ重吉よといくどでもはなしかけるだろう

風が鳴る

とうもろこしに風が鳴る
死ねよと 鳴る
死ねよとなる
死んでゆこうとおもう

こどもが病む

こどもが せきをする
このせきを癒そうとおもうだけになる
じぶんの顔が
巨きな顔になったような気がして
こどもの上に掩いかぶさろうとする

ひびいてゆこう

おおぞらを
びんびんと ひびいてゆこう

美しくすてる

菊の芽をとり
きくの芽をすてる
うつくしくすてる

美しくみる

わたしの
かたわらにたち
わたしをみる
美しくみる



路をみれば
こころ おどる

かなかな

かなかなが 鳴く
こころは
むらがりおこり
やがて すべられて
ひたすらに 幼く 澄む

山吹

山吹を おもえば
水のごとし

ある日

こころ
うつくしき日は
やぶれたるを
やぶれたりとなせど かなしからず
妻を よび
児をよびて
かたりたわむる

憎しみ

にくしみに
花さけば
こころ おどらん



夜になると
からだも心もしずまってくる
花のようなものをみつめて無造作にすわっている

日が沈む

日はあかるいなかへ沈んではゆくが
みている私の胸をうってしずんでゆく

果物

秋になると
果物はなにもかも忘れてしまって
うっとりと実のってゆくらしい



秋だ
草はすっかり色づいた
壁のところへいって
じぶんのきもちにききいっていたい

赤い寝衣

湯あがりの桃子は赤いねまきを着て
おしゃべりしながら
ふとんのあたりを跳ねまわっていた
まっ赤なからだの上したへ手と足とがとびだして
くるっときりょうのいい顔をのせ
ひょこひょこおどっていたが
もうしずかな障子のそばへねむっている



ながいこと病んでいて
ふと非常に気持がよいので
人の見てないとこでふざけてみた

奇蹟

癩病の男が
基督のところへ来て拝んでいる
旦那
おめえ様が癒してやってくれべいとせえ思やあ
わしの病気ゃすぐ癒りまさあ
旦那なおして…

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