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からすの唄うたい
からすのうたうたい
作品ID54212
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 4」 講談社
1977(昭和52)年2月10日
初出「時事新報」1925(大正14)年5月7日~19日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者へくしん
公開 / 更新2021-01-23 / 2020-12-27
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ある田舎の街道へ、どこからか毎日のように一人のおじいさんがやってきて、屋台をおろして、チャルメラを吹きならして田舎の子供たちを呼び集め、あめを売っていました。
 おじいさんは、小さな町の方から倦まずに根気よくやってきたのです。空の色がコバルト色に光って、太陽がにこやかに、東のいきいきとした若葉の森にさえ微笑めば、おじいさんは、かならずやってきました。
 チャルメラの音をきくと、子供は、たちまち地の下からでもわき出したように、目の前に集まってきました。おじいさんは、青や、赤や、黄色の小旗の立ててある屋台のかたわらに立って、おもしろい節で唄をうたいました。
 子供らばかりでなく、この街道を通って、あちらの方へ旅をする商人などまでが、松並木の根に腰を下ろして、たばこをすったり、おじいさんからあめを買って、それを食べながら、唄をきいていました。
 あたりは、穏やかで、のどかでありました。くわの刃先が、ちかり、ちかりと圃の中から見えて、ひばりはあちらの空でさえずっています。それは、もう眠くなるのでありました。
 ある日のこと、おじいさんは、いつものように、屋台を街道の松の木の下におろして、チャルメラを吹きますと、いつも自分が、その笛を吹いた後でうたう唄を、すぐそばで歌ったものがあります。
 おじいさんは、びっくりしました。だれが俺のまねをするのだろう? あたりを見まわしたけれど、だれも、そこにはいませんでした。おじいさんは、不思議に思って、また、チャルメラをあちらに向いて鳴らしました。
 すると、また、いつもおじいさんが歌うような節で唄をうたったものがあります。おじいさんは、人のまねをするやつは、なにものだろうと、こんどは、本気になって、あたりを見まわしました。
 枯れた木の枝に、一羽のからすが止まって、頭をかしげていました。おじいさんは、いま、唄をうたったのはこのからすだなと思いました。
「からすは、人まねをするというが、こいつにちがいない。」と、おじいさんは、しばらく、からすをにらんでいました。
 からすは、今日はじめて、ここにいたのではなかったのです。もう、長いこと、この野原の中にすんでいました。からすは、毎日、平和な日を送っていましたが、あまり平和と無事なのに飽きてしまいました。ちょうど、そこへ町の方から、おじいさんがきたのであります。
 からすは、おじいさんが、チャルメラを吹き、唄をうたうのを、あちらの木に止まって、毎日のように聞いていました。
 また、子供や、旅人などが、その唄を感心してきいている有り様をながめていました。からすは、自分もひとつその唄を覚えてやろうと思いました。それから、口の中で、幾十度、幾百度とくりかえしているうちに、とうとう覚えてしまいました。
 からすは、こんどおじいさんがやってきたら、ひとつうたってみようと思っていました。チャルメ…

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