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二番めの娘
にばんめのむすめ
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 4」 講談社
1977(昭和52)年2月10日
初出「少女倶楽部」1925(大正14)年12月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者へくしん
公開 / 更新2020-12-06 / 2020-11-27
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 毎年のように、遠いところから薬を売りにくる男がありました。その男は、なんでも西の国からくるといわれていました。
 そこは、北国の海辺に近いところでありました。
「お母さん、もう、あの薬売りの小父さんがきなさる時分ですね。」と、二番めの女の子がいいました。
 すでに、あたりは、初夏の日の光が、まぶしかったのであります。そして、草木の芽がぐんぐんと力強く伸びていました。
「ああ、もうきなさる時分だよ。」と、母親は、働いていながら答えました。
 その薬売りの小父さんという人は、ほんとうに、やさしいいい人でありました。いろいろな病気にきくいろいろな薬を箱の中にいれて、それを負って、旅から旅へ歩くのでありました。そして、ここへも、かならず年に一度は、ちょうど、あのつばめが古巣を忘れずに、かならずあくる年には舞いもどってくるように、まわってきたのでした。
 この小父さんは、だれにもしんせつでありました。また、どんな子供をもかわいがりました。だから、子供も、この薬売りの顔を見ると、
「小父さん、小父さん。」といって、なつかしがりました。
「今年も、なにか小父さんは、持ってきてくださるかしらん。」と、二番めの女の子は、遠くをあこがれるような目つきをしていいました。
 この一家は、あまり豊かではありませんでした。父親がなくなってから、母親が子供たちを養ってきました。しかし、みんな健やかに育ったので、家の内は、貧しいながら、つねににぎやかでありました。めったに、薬売りの小父さんの持ってきた、薬を飲むようなことはなかったけれど、小父さんは、こちらにくればきっと立ち寄りました。そして、みんなの健やかな顔を見て、心から、喜んでくれるのでした。姉弟の中でも、二番めの女の子は、もっともこの小父さんを慕ったのでした。人のいい小父さんも、旅で見たたくさんの子供の中でも、またいちばんこの子をかわいらしく思ったのでありましょう。
「これをおまえさんにあげる。」といって、青い珠をくれました。それはちょうどかんざしの珠になるほどの大きさでした。
 女の子は、この青い珠を見て、ひとり空想にふけったのであります。
「西の国へいってみたらどんなだろう……。そこに、小父さんは住んでいなさるのだ。」と思いながら、青い珠を手にとってながめていますと、はるかに高い空の色が、その珠の上にうつってみえるのでありました。
 はたして、薬売りの小父さんは、夏のはじめにやってきました。そして、こんどはお土産に、二番めの女の子に、紅い珠をくれました。ほかの子には、西の国の町の絵紙などをくれました。
「みなさん、いつもお達者でけっこうですね。私も、もう年をとって、こうして歩くのが、おっくうになりました。若いときから、働いたものですが、この後、もう幾年も諸国をいままでのようにまわることはできません。それに、私には、子供というも…

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