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小犬と太郎さん
こいぬとたろうさん |
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作品ID | 54229 |
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著者 | 槙村 浩 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「槇村浩全集」 平凡堂書店 1984(昭和59)年1月20日 |
入力者 | 坂本真一 |
校正者 | 雪森 |
公開 / 更新 | 2014-09-07 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 3 ページ(500字/頁で計算) |
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或所に太郎といふ子供がありました。太郎は大へん犬ずきでした。或日太郎はお母さんに二十銭お小づかいをいたゞきました。太郎は「何を買はうかなあ」といひ乍ら町を歩いて居ました。太郎はあちこち歩いて居ますと、二匹の小犬が今にも殺されさうに成ってゐました。太郎は情深い人でしたから「モシ/\その犬はどうしたのですか」「アヽ此の犬かね、此奴家へ入って来て私達が食事してるそばでクン/\/\/\泣きやがってね、うるさいから今殺そうと云う所だ」「なら私にそれをくれまいかネ」「たゞではやれないよ」その人はこすい目をしていひました。
「そんなら銭を出すが売ってくれまいか」「ホウ銭を出すといふのか、では三十銭おいて行け」「高い二十銭にせぬか」「よしハヽヽヽうまいもうけだ」とかげで舌を出した。太郎は家へ帰ると、「お父さんコレ、コノ犬を買って来たよ」「何、可愛らしい小犬だナア」お父さんはしきりにその犬をほめて居ました。小犬はかはいらしい目をバチ/\させながらお父さんにじゃれつきました。「アヽさうだ、お父さん馬に草をやらねばならないのだっけ」「アヽさうだ、それではやってくるがいゝ」「ではうらへ行って来ます」と出かけると、二匹の犬は其の後をなつかしさうに尾をふり乍らついて行った。
二匹の犬は太郎が馬に草をやってしまふまで見て居ました。それがすむと二匹の小犬は一匹は太郎のきもののすそをくはへて、コチラへ/\といふやうに引っぱります。又後の一匹は時々後を向いては太郎に、コチラへ/\といふやうにまねきます。太郎は面白く成って後へついて行きますと田舎へ出て来て、たんぼの中を何町も行きますと一つの古い社があります。そのうらに大きなもみの木がありました。犬はその根元を一生懸命にほって居ます。太郎も面白く成ってそこをほって居ると一つのふくろが出ました。その結目をとくと中からお金がどっさり出ました。お金は今しも入らうとする太陽に照らされて、キラ/\/\と目もまばゆいばかりに光りました。太郎は「アッ」といって思はず後へしりもちをつきました。とたんにサーッと金と銀の光が太郎の目を流れるやうに ました。
太郎は驚いてあたりを見まはしますと二匹の犬の姿は消え、二人の清く美しい又尊とい女神が二人姿を現はしました。二人の女神は驚く太郎をせいしながら「太郎よ、わたしは海の神ぢゃ」「太郎よ、わたしは地の神ぢゃ」「かりに小犬に姿をやつして」「人間界に来て見れば」「思ふにはにずざんこくなものだ」「しかし其の中にはお前の様な」「心の清い情深い人もある」「いや実にお前は感心だ」「その心にめでて古来いくたの人のたんけんしやうとして及ばなかったこの宝は」「皆お前にやる」「ヘヘッ」太郎は思はずそこにひれ伏しました。さうして顔を上げると二人の女神の姿は見えず社などはありませんので、あたりを見まはしますと自分はあの畑でグッスリねこんで…