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松の影
まつのかげ |
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作品ID | 54242 |
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著者 | 槙村 浩 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「槇村浩全集」 平凡堂書店 1984(昭和59)年1月20日 |
入力者 | 坂本真一 |
校正者 | 雪森 |
公開 / 更新 | 2014-10-25 / 2014-09-15 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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何百年のその間
村の境に立ってゐる
一本松の松の影
今はだん/\枯れて来て
「かうまではかなく成ったか」と
空をあふいで一人言
「この私が生れたは
丁度今からかぞへたら
六百年の其の昔
あちらの村の庄屋さん
こゝへ私を植えたので
何百年のその間
こゝにかうして居たのだが
始は小さい松の影
だん/\大きく成って来て
二つの村の人々が
一日たんぼで働いた
つかれをいやす松の影
今は仲好し友達が
二人三人つれ立って
向の山や近の浜
遠足に行く行き帰り
必ずこゝで休んで
こう言ったなら私も
少しはお役に立ちませう
しかし今では意地悪な
きつつき鳥につゝつかれ
松はだん/\枯れて来て
もう早や死んで終ひそう
これまでたび/\こゝへ来て
休んで行った村の人
少しも私に取り合はぬ
これから私はどうなるか」
言って終って吐いきつく
ほんとにあはれな松の影
大正十一年七月十六日綴