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![]() かめ |
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作品ID | 54263 |
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著者 | 濤音 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「沖縄文学全集 第1巻 詩Ⅰ」 国書刊行会 1991(平成3)年6月6日 |
初出 | 「沖縄毎日新聞」1912(明治45)年1月23日 |
入力者 | 坂本真一 |
校正者 | きゅうり |
公開 / 更新 | 2018-11-23 / 2018-10-24 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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まがどりのやうな冠船が翼をひろげて
那覇港内にしやんで居るうちは
薩摩の殿にはあへまいわなあ。
凛々しい殿のかみしも姿が眼の前に
まざまざと浮んでくるやうな。―
殿はいま露つぽい美里間切を深編笠のしのびあるき。
あゝなさけない世となつた。
ついあけがたまでなつかしい殿御と
添寝の夢の名残は室の隅にも残れど。
うらめしい開門鐘に空が白むと
むつくり起きあかりて仰せらるゝ
「さらばかめイしばらくは待つてくれ[#「待つてくれ」は底本では「待ってくれ」]。」
「妾もついてゆきます」と申すと
「これが邪魔する」とはつたと叩れた腰の朱鞘。
そうしててしやで染のわか小指をにぎられたが。
はてなさけない世となつた。
膏脂 香 息のつまりさうな唐人と
どうして添寝ができませうか。