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貧農のうたえる詩
ひんのうのうたえるうた
作品ID54267
著者長沢 佑
文字遣い新字新仮名
底本 「日本プロレタリア文学集・38 プロレタリア詩集(一)」 新日本出版社
1987(昭和62)年5月25日
初出「戦旗」1929(昭和4)年10月号
入力者坂本真一
校正者雪森
公開 / 更新2016-01-17 / 2015-12-24
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


春―― 三月――
薄氷をくだいて
おらあ田んぼを打った
めっぽー冷こい水だ
足が紫色に死んで居やがる
今日は初田打
晩には一杯飲めるべーと気付いたので
おらあ勇気を出した
ベッー[#挿絵]
手に唾をひっかけて鍬の柄をにぎった
だがやっぱりだめ
手がかじかんで動かない
ちきしょう
おらあやっぱり小作人なんだ

それから夏が来た
煮えかかるような田の中で
俺達は除草機の役をする
十日も続く 指の先から血が滲む
其のいたいったら
ちきしょう!
地主のうちの娘っ子が通る
メンコイ顔した娘っ子が
町の女学校へ行くんだ
柄のデッケイこんもり傘だ
涼しそうなパラソルだな 俺んもな
妹の野郎がおふくろにしゃべった
馬鹿野郎 だまって仕事しろ
俺は呶鳴った したらみんなだまった
また今年も半作だぞ
親父が暗い顔で言った
地主の野郎は今頃扇風機の三つもかけて居やがるだろう
ああ暑くて死にそうだ!
おらあやっぱり小作人なんだ

渡り鳥が来て秋に成った
それからすぐ又冬が来た
親父が又言った
今年も半作だぞ……
然し俺達は今迄の小作人では無かった
村では去年にこりて
組合を作ることにした
下村の奴等が仲間に成れと云って来た
だが 俺達は
一番しっかりした組合
全農の仲間入りをした
全国農民組合新潟県連合会南部地区西南部小地区
恐しい長い名前だ
おらあ何度もケーコしたが
まだおぼえられねい
そして演説会があった、俺は聞きに行って
新しい言葉をおぼえた「何たる矛盾ぞ」
俺は早速帰って来て呶鳴った
働く者は貧乏する!
遊んで居やがる地主は金持だ!
「何たる矛盾ぞ!」
(一九二九年八月三日作 『戦旗』同年十月号に発表)



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