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雨の日
あめのひ |
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作品ID | 54346 |
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著者 | 森川 義信 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「増補 森川義信詩集」 国文社 1991(平成3)年1月10日 |
初出 | 「裸群」 |
入力者 | 坂本真一 |
校正者 | フクポー |
公開 / 更新 | 2018-06-16 / 2018-05-27 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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硝子窓から青猫がやつて来てぼくの膝にのる
よろよろとまるで一枚の翳のやうなやつだ
背をなでてゐるとぼうぼうと啼き出し
ぼくの腹の中までぼうぼうと啼き出し
こいつ こいつ …………
だがお前の眼のうるんだ青白い幻燈よ
ゆううつな向日葵のやうにくるりくるりと
黒繻子の喪服の似合ふ貴婦人か
お前は晩秋のやうにぼくの膝にやつてくる
苦い散薬の重いしめりに
色変へるまで青猫を思索するぼくの若さよ
何年も座つてゐたやうに立ち上り窓に歩みよる
ぼくはもうぼくの青猫を放たう
夕暮は力強く窓硝子をおしつけ
その向ふでは雨の跫音が嗤ふ
ぼくは掌をみる ぼくは胸をみる
青猫は――青猫はもうゐない
いや
青猫はまたどこかでぼうぼうと啼きだす