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虚しい街
むなしいまち
作品ID54362
著者森川 義信
文字遣い新字旧仮名
底本 「増補 森川義信詩集」 国文社
1991(平成3)年1月10日
初出「詩集」1941(昭和16)年7月
入力者坂本真一
校正者フクポー
公開 / 更新2018-08-09 / 2018-07-27
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


白亜の立体も
ひたむきな断面も
せつない暗さの底へ沈みつつ
沈みつつ
翳に埋れ
影に支へられ
その階段はどこへ果ててゐるのか
はかなさに立ちあがり
いくたび踏んでみたことだらう
煙のある窓ちかく
自ら扉はひらき
そこに立ち去る気配もなかつた
忘れられた木の椅子のほとりから
哀れな水の匂ひがひろがり
脱落するしやつのあとには
あやまちのごとく風が立つた

あのふしあはせな鳶色の時間には
美しい車輪がしづかに動いて
おまへも街をみてゐただらう
ためらひがちな跫音を待ちながら
煤けたらむぷもひとつの灯をともし
そしてやはらかに燃え
まづしい家具の傍には
うつとりするやうな記憶があつたと
いまでは誰が信じ得よう
倒れる音も 出てゆく音も
遠い夕とどろきににて帰らないのか
歩かう
どこかへ行かねばならぬ
誰もみてゐない街角から
むしろ佗しい風の方向へ
実体のない街
深い空間をまたぎ
おびただしい車輪は戻つてきた
壊れた通路を捉へ
凍えた石畳を
踏みにじり走つてゐる
放埓な円心から閃く
炎や煙りの響きがきこえる
はげしい振動のなかで
何を考へようとしたのか
あやまつておまへは倒れた
かぞへきれない扉や支柱も
悲痛によじれ
水平のまま沈んでいつただらう



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