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中村仲蔵
なかむらなかぞう |
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作品ID | 54444 |
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著者 | 山中 貞雄 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「山中貞雄作品集 全一巻」 実業之日本社 1998(平成10)年10月28日 |
入力者 | 平川哲生 |
校正者 | 米田 |
公開 / 更新 | 2014-09-29 / 2014-09-15 |
長さの目安 | 約 49 ページ(500字/頁で計算) |
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[#ページの左右中央]
中村仲蔵(未映画化)
――――――――――
原作並脚色 山中貞雄
[#改ページ]
=(F・I)道
鏝不付の半次が徳利持って一散に走って居る。
(移動)
(ヘッド・タイトルを道の移動にダブらしたらどうかと思います)
(速やかにF・O)
=(F・I)松平帯刀の邸
一人の旗本、斬られてダダーとのけ反った。
入れ替りに一人がサッと斬り込む。
斬り込んで来た奴を横薙ぎにして左刄高く振り上げた此村大吉、大見得切った形。
殺陣開始――
遂に大吉、帯刀を斬り倒す。
其処へ半次が漸く駈け付けて来た。「ようよう死んでるぞ、死んでるぞ」と数多い死体を見て大喜び。
大吉、ホッと一息付いた所へ半次も来て「旦那、酒だ!」と大吉に酒を渡し、
「サテ、おきよさんは?」と、ある部屋の襖を開くと、
縛られて居るおきよの後姿。
半次、急ぎ彼女の許へ駈け寄って縄を解く。
大吉は、悠々徳利のガブ呑み。
(静かにダブって)
T「そんな訳で
とうとう鬼神組を
皆殺しにして
了ったんです」
=江戸の町
話して居るのは鏝不付の半次。
ブラブラ歩き乍ら聞いて居るのが行安寺の五郎蔵親分です。
半次歩き乍ら尚もベラベラ、
T「右腕の傷も、案外、軽く
想う女を手に入れて
天晴れ男ッ振りを
上げたまでは
まあいいんですがね」
と半次が言えば、五郎蔵が「それから?」
半次「ササ」
T「それからが
なっちゃ居ないんです」
「悪い事が続いたんです、先ず第一に」と半次。
T「大勢を手に掛けたとあって、
錦糸堀五百石の御邸は
御取り潰しになり……」
「とうとう浪人生活」と云えば、五郎蔵「そりゃそうだろう」半次尚も、
T「その上、
そのおきよって女が
見掛けによらんあばずれでしてね」
と話し続ける半次。
T「旦那に金がないと
知ると、急に
手の掌かえして
水臭くなりやがって、
果は情夫と手に手を
とってドロン……」
(次の画面へダブル)
=大吉の浪宅
(前の字幕からダブって)
遺されたおきよの書置き手に呆然自失、ドッカと座敷に坐った儘の大吉、
やる瀬なくその手紙胸に抱いて、
T「おきよ!」
悲痛な叫びです。フラフラと立ち上って、足許定まらず壁に凭れて項垂れる。
室の隅っこに淋しく残された鏡台、とり散らかされた化粧道具、
(それが静かにダブッて)
鏡台の辺りに転がって居る一升徳利、もう一つコロコロ転がって来て二つコツンと衝突しました。
机に凭れた大吉(数日後の事です)酒呑むのも嫌だと云った形。
T「淋しいな」
側の半次が相槌打った「淋しゅう厶んしょうね」
T「今更、鬼神組と
喧嘩した、あの頃が
懐かしい」
泌々と独り言云う大吉。
T「あの時、皆斬らずに
せめて半分位
残しときゃよかっ…