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なりひら小僧
なりひらこぞう |
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作品ID | 54445 |
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著者 | 山中 貞雄 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「山中貞雄作品集 全一巻」 実業之日本社 1998(平成10)年10月28日 |
入力者 | 平川哲生 |
校正者 | 門田裕志 |
公開 / 更新 | 2012-11-05 / 2014-11-12 |
長さの目安 | 約 20 ページ(500字/頁で計算) |
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なりひら小僧 東亜時代映画 (サイレント)
原作並脚色 山中貞雄
監督 仁科熊彦
撮影 藤井春美
キャスト
なりひら小僧 嵐寛寿郎
さんぴん山左衛門 市川寿三郎
二ツ目左膳 頭山桂之助
おさらばお小夜 原 駒子
ましらの半次 阪東太郎
ふんぞり七兵衛 尾上紋弥
大月玄蕃 東正次郎
居酒屋の亭主 嵐橘右衛門
娘お静 歌川絹枝
落合主水之正 矢部伊之助
一子三十郎 前田邦彦
岩瀬平馬 嵐寿三郎
妹浜路 小島一代
大和屋吉兵衛 岡本正男
(但馬屋源兵衛)
金貸し利兵衛 今成平九郎
[#改ページ]
T「先ず此処に」――
○=ある刀屋の店先――
大きな店だ。
T「強欲非道の男がある」
店先で子供が縄飛びして居る。
帰って来た刀屋の主人徳兵衛が子供を叱りとばす。
T「すると其処へ……」
さんぴん山左衛門が実に情けなさそうな恰好で現れて刀屋の店へ入る。
○=内部
徳兵衛、番頭手代に当り散らして居る。其処へ山左が入って来た。
徳兵衛、御世辞を言い乍ら「何御用で御座います?」
山左がしおれて腰の刀を抜いて出す。
T「さんぴん山左衛門が祖先伝来の此の名刀」
とほろりとした。受けとった徳兵衛中味を調べる。如何で御座ると山左。
徳兵衛が刀を収めて、
T「先ず二両」
山左が驚いて、
T「捨て売りにしても五十両は」
徳兵衛、
T「この不景気に御冗談を」
と言われて山左が、
T「では三十両」
徳兵衛、あきまへん。
T「二両より出せません」
山左が涙を呑んで、
T「せめて十両」
あかんあかんと徳兵衛ソッポ向く。山左がっかりして、
T「致し方御座らん」
○=表
山左二両持ってトボトボと出て行きました。入れ違いに今度は二ツ目左膳と、おさらばお小夜御免と内へ入る。お小夜一寸おくれて表で待って居たがそっと中を覗く。
○=内では
二ツ目左膳、今山左が売った刀を見て徳兵衛に、
「如何程じゃ」と訊く。徳兵衛が、
T「十両」
左膳「十両? 高いぞ」
T「五両に負けとけよ」
御冗談をと徳兵衛。
左膳が、
「しかたが無い、よし」
T「二ツ目左膳が十両で買ったぞ!」
と言ってお小夜に実はこれこれでと頼む。
「仕方が無いわね」とお小夜紙入れを出す。
逆に振ったが五両しか無い。
その五両を徳兵衛の前へ出して左膳、
T「手付が五両」
それから、
T「残金は夕方に持参する」
と言って立ち去ろうとしたが振り返って徳兵衛に、
T「買った以上は身共の品」
T「夕方迄確かに貴様に預けたぞ」
と、念を押す。
○=表
去って行く二人。入れ違いに、今度はなりひら小僧とましらの半次。なりひらは高禄の御武家様が御忍びと言…