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湯川博士の受賞を祝す
ゆかわはかせのじゅしょうをしゅくす
作品ID54449
著者長岡 半太郎
文字遣い旧字旧仮名
底本 「長岡半太郎隨筆集 原子力時代の曙」 朝日新聞社
1951(昭和26)年6月20日
初出「技術聯盟講演」1949(昭和24)年12月17日
入力者しだひろし
校正者染川隆俊
公開 / 更新2013-12-10 / 2014-09-16
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 我邦では敗戰の創痍未だ癒えず、媾和條約未だ締結されず、國民は暗雲に鎖された氣持ちに包まれている際、湯川博士がノーベル賞を受けられた吉報に接したのは、黒雲の一隅から一條の日光が燦爛たる輝きを示した心地がして、專門家に限らず大衆に至るまで、歡聲をあげて喜びを同じくしました。しかしその喜びには、いろ/\の素因が伏在しています。單に世界で最も重きを置くノーベル賞が初めて本邦人に與えられたのを喜ぶ人もあり、或は久しく暗黒界に潜んでいた原子核を探求するに先鞭をつけたのは、黄色人の科學者であるにも拘らず受賞されたことを喜んだ人もあろう。或は永く神秘に付せられた原子核の研究が、これより益々發展して、獨り學問のみならず、これを文化開發の用に供せらるゝ時期の遠きにあらざるを豫想して、拍手した人もあつたろう。手を叩いて受賞の報知を迎えた大衆の感想を問わば、千差萬別でありましようが、皆喜びに滿ちたことは疑いを容れませぬ。
 想うに文化の進歩は階段的であつて、ギリシャ時代、ルネイッサンス時代とか、大別してありますが、科學や工藝は時代の特種啓發により、段階が顯著になつています。殊に十九世紀の末葉は物理學界に幾多の發明發見が表われて、たゞに學界に限らず、また工業界に數多の革新を促しました。なかんづく、電波の發生は可視光線をもその範圍に屬せしむるに至り、その頃發見されたX線もまた、これに包含され、また無線通信ラジオ等まで、これに頼つて發展し、世界を狹隘にしました。更に電子の發見により、電子工學の部門を開發し、その用いらるゝ方面は多岐に亙り、その用途は長足の進歩を遂げ、地球表面に通信網を張り廻し一瞬間に情報を各所に傳えるに至りました。しかして人間が、いつかは鳥に均しく飛び得る時機が來るであろうと豫期されていた飛行機も飛翔するようになりまして、面白き世態を表現しています。これを百年前の状勢に較べますと、雲泥の差があります。これらの進歩は昔から希望されていても容易に實行に至らなかつたのでありましたが、學者の齎し得た成果を巧みに利用した結果であります。しかして昔の人が、たゞに理想に過ぎずと思つた事が、今日では着々實行に移されています。これを啓發したのは、殆ど總てが白色人の手腕によつて爲されたのであります。勿論日本人も手傳いは致しましたが、僅かに九牛の一毛に及びませぬ。それゆえ彼等は、日本人は眞似をすることが上手だから、沐猴冠者であると誹謗を浴びせています。この汚辱は一刻も早く雪ぎ去らねばなりませぬ。幸いに今回湯川博士はノーベル賞を受け、初めて原子核構造を探見した元祖として盛名世界に赫々として傳わつています。この好機會を逸せず、諸君が原子核に存在する素粒子を利用する方法を攻究し、人間の福祉に資すべき發明に成功せらるれば、既往の謗りを洗い落すことが可能であると存じます。從つて理論に沒頭している湯川博…

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