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恋しき最後の丘
こいしきさいごのおか
作品ID54540
著者漢那 浪笛
文字遣い新字旧仮名
底本 「沖縄文学全集 第1巻 詩Ⅰ」 国書刊行会
1991(平成3)年6月6日
初出「琉球新報」1911(明治44)年11月12日
入力者坂本真一
校正者良本典代
公開 / 更新2017-08-06 / 2017-07-17
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


その一

うら若かき頃の、悲しきあこがれ………
草葉の息ふきかへす甘き香り、
艶はしき花の笑ひもながめて過ぎぬ、
木の間にさへずる、鳥の歌をきゝ、
悲しみは眼を閉ぢて、暫時やすらひもせし、
されど、とく新らしき悲しみに転りぬ、
何をもて、この闇を照さむ、
空を仰げば恐ろし………
いざさらば、独り琉球節の一曲を、
口笛にふるわせ、
うらやすき墓場のほとりにさ迷はむ、
そは音なき響きを(聞)かんとや………

その二

わが思ふ女のありやなしや、
まよはしきかな、
夕暮の窓にもたれて、蒼白き息ふくわれも、
またありやなしや、
あなうたがはし、
蚊のなく声を、君が悲しき唄とやきかむ、
柔風の木の葉にすがる、たはふれを、
君が、鬢のほつれもやきかむ、
淋しき夕べの鏡もきこゆ、――
森の彼方、君住む墓のほとりにやはあらむ、
今なり! われは独りさ迷ひゆかむ………
夕べの鐘をしたひて、
その音に耳を沈めて。

その三

なつかしい丘の上、
棕梠の若葉のそよぎ、小鳥の歌、
傾むきつくす夕陽も、
見る/\最後の接吻をのこして、

深い/\海の彼方へ去らうとする、
なつかしい丘の上に、Kの君を待つ心よ!
夢を語るやうな暮の風に顫へる、
葉づれの音に眼が狂へば、
西へ東に、足が動きだす………
夫れと思ふ俤が、更に眼にとまらぬ、
胸を抱いて、深い悲しみに沈む、
林の間に、夜の色が浮び出した………
黒ろい恐ろしい影は、
私の魂を圧しはじめる、
もう是れが私の、Kの君に対する最後だ!



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