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特殊部落ということについて
とくしゅぶらくということについて
作品ID54857
副題まず部落としての集団的取扱いを廃せよ
まずぶらくとしてのしゅうだんてきとりあつかいをはいせよ
著者喜田 貞吉
文字遣い新字新仮名
底本 「賤民とは何か」 河出書房新社
2008(平成20)年3月30日
初出「民族と歴史 3-7号」1920(大正9)年6月
入力者川山隆
校正者門田裕志
公開 / 更新2013-03-08 / 2018-01-24
長さの目安約 21 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 余輩がさきに「特殊部落研究号」(本誌二巻一号)を発行して、いわゆる特殊部落なるものの由来沿革を明らかにし、彼らが決してことに疎外排斥せらるべき性質のものにあらざる所以を説明すべく試みた事は、読者諸君の今なお耳目に新たなることと信ずる。当時紙数の制限と、編纂期日の束縛とによって、説いて委曲を悉くす事能わず、研究またすこぶる不十分で、後の訂正増補を要すること少くなかったにかかわらず、幸いに読者諸君の甚大なる注意を促すことを得て、爾来これに関する感謝・賞賛・希望・鞭韃等の書面や、研究報告の論文記事等の原稿は、積んで編者の机上にうずたかきをなすに至った。これが為に余輩の研究上裨益するところ甚だ多きを致したのは、余輩の深く感謝するところである。ここにおいて余輩は、さらに他の一般特殊民に関する諸研究をもこれに合せて、早晩前者の姉妹篇とも云うべき一つの増大号を発行し、以てこれら篤志家各位の好意に酬いんことを予期して、しばらくこの方面に関する論説記事の掲載をなるべく差控える方針をとっておった。しかるに不幸にして近時余輩の有する余暇と余輩の健康とは、当分かくの如き増大号の頻繁なる発行を見合すべく余儀なくせしむるに至ったが為に、余輩は前々号以来、俗法師の研究を始めとして、再びこれら特殊民に関する雑多の研究報告を、断片的に本誌普通号上に分載発表することとした。これまた既に読者諸君の御注意に上った事と信ずる。願わくは熱心なる同好諸君、余輩のこの挙に賛して、ますます各地における各種特殊民の過去現在の状況に関する有益なる報告を寄せられて、余輩の研究を助成し給わんことを。
 過去における特殊民は、その関係するところすこぶる多方面に渉っている。今日いわゆる特殊部落なる旧エタ及びその類似の諸部族の如きは、過去におけるその多数の特殊民中の一小部分たるに過ぎないのである。しかもその多数の特殊民が、何ら社会の疎外排斥を受けざるのみか、かえって世人の尊敬憧憬の標的となっているものも少からず存在し、もしくはかつて幾分疎外排斥を受けていたのであっても、今日では既にその事実がほとんど忘却せられて、社交上何らの区別を見ることなく、公々然として天下の大道を横行闊歩しているものの甚だ多きにかかわらず、もとそれらと同じ流れを汲んだいわゆる特殊部落なるものが、今に至ってなおひとりその後に取り残されて、この広い世界を狭く渡らねばならぬということの不条理なるは、何人も異議なきことであらねばならぬ。旧時のエタが特に疎外せられたのは、前号所載の「エタと皮多」に論じた如く、彼らが肉を喰い皮を扱うの皮多であったが為である。彼らの肉を喰い皮を扱うの所行が、穢れた業である、神明の忌み給うところである、常人の近づくべからざるものであるという迷信誤解が、彼らが特に他の各種の特殊民に比して、甚だしく疎外排斥せらるるに至った理由のすべて…

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