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株式仲買人
かぶしきなかがいにん |
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作品ID | 54912 |
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原題 | THE STOCK-BROKER'S CLERK |
著者 | ドイル アーサー・コナン Ⓦ |
翻訳者 | 大久保 ゆう Ⓦ / 三上 於菟吉 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
入力者 | 大久保ゆう |
校正者 | |
公開 / 更新 | 2012-04-05 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 31 ページ(500字/頁で計算) |
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結婚してほどなく、私はパディントン区に医院を買った。ファーカ氏という老人がその売り手で、一時はかなり手広くやっていたのだが、年もあり舞踏病の気もあったために参ってしまい、ひどく寂れてしまっていたのだ。世間の人にとって、人を治す者は自身も健やかたるべき、その薬が自分の病に効かないとなればその人物の医者としての腕前を怪しむ、というのも無理からぬ話である。このように前の持ち主はその医院を傾かせていき、私が購入したときにはもう、年一二〇〇から三〇〇に落ち込んでしまっていた。けれども私は、自分の若さと体力とに自身があったので、ほんの数年のうちにかつてほどの賑わいを見せるものと確信していた。
業務を引き継いでから三ヶ月の間は仕事にかかりきりで、我が友シャーロック・ホームズとも顔を合わせなかった。多忙のあまりベイカー街へも行けなかったし、向こうも職業上の案件をのぞいてはほとんどどこへも出かけなかったからだ。だから驚きだった。六月のある朝、朝食後に腰を下ろして大英医師会報を読んでいると、呼び鈴の音が聞こえ、そのあと我が懐かしき友のあの高くどこか軋むような声が続いたのだ。
「やあ、ワトソンくん。」と友人はつかつかと部屋に上がり込む。「会えて実に嬉しい! 御前様はもうすっかりいいのだろう、『四人の誓い』事件の関係で、いささか動揺されていたが。」
「おかげさまで二人とも元気だ。」と私は言って、心からその手を握った。
「それから願わくは、」と友人は話を続けながら揺り椅子に座って、「医療にかまけて、僕らのささやかな推理の問題に傾けていた興味を、すっかりなくしてしまってなければいいのだが。」
[#挿絵]
「ところがどっこい。」と私は答える。「つい昨晩も古い覚書きに目を通して、過去の成果をいくつか整理していたところだ。」
「とすると、君の記録も終わったわけではないと。」
「まったくだ。こんな経験がもっとできるに越したことはないとさえ思う。」
「ではたとえば、今日は?」
「ああ今日でも、君がよければ。」
「バーミンガムくんだりでも?」
「ああ必要なら。」
「すると仕事の方は?」
「隣がいないときは私がやってる。向こうも借りを返したがっててな。」
「ふむ、好都合だ。」とホームズは椅子にもたれかかったまま、細めた目で私を鋭く見つめる。「どうやら君は近頃すぐれないようだ。夏風邪はいつも性格が悪い。」
「ひどく寒気がして、先週三日ばかり家に閉じこもりだったよ。だけどもうすっかり抜けきったかな。」
「その通り、かなり平気そうだ。」
「にしても、どうしてわかったのかね?」
「まったく、僕のやり口は知ってるだろうに。」
「なら演繹か。」
「まさしく。」
「では何から?」
「君の室内履きから。」
私は自分の履いている新品のエナメル革に目をおろした。
「いったいどうやって――」と言いかけたところで、ホ…