えあ草紙・青空図書館 - 作品カード
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![]() さんまいのがくせい |
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作品ID | 54915 |
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原題 | THE ADVENTURE OF THE THREE STUDENTS |
著者 | ドイル アーサー・コナン Ⓦ |
翻訳者 | 大久保 ゆう Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
入力者 | 大久保ゆう |
校正者 | |
公開 / 更新 | 2012-04-05 / 2019-06-14 |
長さの目安 | 約 30 ページ(500字/頁で計算) |
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あれは九五年のこと、ここで触れるまでもない諸々の事情から、シャーロック・ホームズくんと私は、この国随一の大学町で数週間を過ごすこととなったのだが、その折に見舞われたのが、今よりお話するささやかながらも深い事件なのである。もっとも詳しく書いて読者諸賢にその大学や犯人を特定させようものなら、盲動俗悪の謗りを受けよう。かように痛ましい不始末は忘れるままがよいのではあるが、しかるべき配慮さえあれば、この一件を著してもよかろうと思われる。何よりわが友人の辣腕の一端を知らしめる一助となるのであるから。ただ記すにあたり、この件を特定の場所へ結びつけたり、関係者への手がかりを与えたりすることのないよう心がけるものである。
当時我々が身を寄せていたのは図書館近くの家具つき下宿で、シャーロック・ホームズは初期イングランドの勅許状について念入りに調べ上げていたところだった――その成果は見事なものであるからいずれお話することがあるかもしれない。ともかくもここである夕べ、我々はある知人の訪問を受けた。ヒルトン・ソウムズ氏は聖ルーク学寮の学監兼講師であり、長身痩躯、ささいなことを気にしてすぐ怒り――以前より落ち着きのない男だと知ってはいたが、今回は手がつけられないほど取り乱したふうであったから、ただならぬことが出来したのは間違いなかった。
「ぜひとも、ホームズ先生、貴重なお時間を少々割いていただきます。聖ルークは大弱りの事件に見舞われ、まさに僥倖、あなたがこの町にいらっしゃらなければ、どうすべきか今頃途方に暮れておりました。」
「僕は目下大忙しで、邪魔はご勘弁を。」と友人が答える。「警察を呼ばれた方がよかろうと存じます。」
「いやいやよろしいですか。そのような対応はどだい無理。いったん警察沙汰になればもう収まりつきません。この件ばかりは学寮の名誉のため、騒ぎになるのをどうしても避けねば。ご配慮いただけるのはその手腕同様つとに有名、助けとなるのはあなたばかり。お願いです、ホームズ先生、どうかお力を。」
友人の機嫌は勝手知ったるベイカー街の環境から離れて向こうよくなることはなく、切抜帳も実験器具もいつもの散らかり具合もないとあっては、とっつきにくい相手とならざるをえない。しぶしぶといったふうに肩をそびやかすと、客人は早口でそわそわ身振り手振りを交えて、話を一挙に語り出す。
「前置きとしては、ホームズ先生、明日はフォーテスキュー奨学金の試験初日で、わたくしも試験官のはしくれ。担当はギリシア語で、問題冒頭に受験生の見知らぬ長文のギリシア語翻訳を課しておりまして。試験問題に刷られた箇所が割れれば、当然受験生は前もって対策できますから、大いに利がございます。ですから細心の注意を払って問題を伏せるわけで。
本日三時頃、問題の校正刷りが印刷屋から届きまして。課題としてはトゥキュディデスから半章…