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北風にたこは上がる
きたかぜにたこはあがる
作品ID54998
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 11」 講談社
1977(昭和52)年9月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2016-10-09 / 2016-09-21
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 隣家の秀夫くんのお父さんは、お役所の休み日に、外へ出て子供たちといっしょにたこを上げて、愉快そうだったのです。
「おじさんのたこ、一番だこになれる?」と、北風に吹かれながら、あくまで青く晴れわたった空を見上げて、賢二がいいました。
「なれるさ。」と、おじさんは、いったが、そばから秀夫くんが、
「お父さん、もっと糸を買ってこなければ、だめですよ。」と、いっていました。そのうちに、たこはぐるぐるとまわりはじめました。
「あ、落ちる!」と、秀夫くんは、あわててお父さんの手から糸を受け取ると、うまく調子をつけましたので、たこは、やっと落ちなかったのです。
「おじさんは、まだ下手だなあ。」と、賢二がいいますと、
「あ、はははは。」と、おじさんは、笑いました。
「賢ちゃん、君の家では、活動写真をしているの?」と、おじさんは、ききました。
「活動写真? どうしてですか。」と、賢二は、不思議そうに、おじさんの顔を見ました。
「だって、さっきから、ガリ、ガリ、ガリやっているじゃないか。」
 おじさんは、それがなんの音であるか見当がつかないので、賢二くんの兄さんか、姉さんかが子供の活動写真でもやっているかと思ったのでした。
「あ、あれか。」と、賢二は思いましたが、
「なんでもないんですよ。」と、賢二は答えました。
「そうか、ちょうど、活動写真をまわしているようにきこえるから。」と、おじさんは、いいました。
 かつて、秀夫くんの家にも、活動写真機があって、みんながいって、よく見たのですが、あまりひどくハンドルをまわしすぎて、ついにいまでは、その機械は、役にたたなくなってしまったのです。おじさんは、たぶん、自分の家にあった、その機械のことを思い出したのでしょう。
「お姉さんが、なにかお料理を造っているのです。」と、賢二は、答えました。
 このごろ、てんぴを新しく買ったので、お姉さんは、しきりにいろいろのお料理を造るのだけれど、あまりうまくいかなかったのです。そんなことを思うと賢二は、ちょっと苦笑せずにはいられませんでした。
 おじさんは、また、どんな料理かと思ったのでしょう。合点がいかぬというような顔つきをして、
「ふうーん。」といって、そのまま空を仰いで、秀夫くんの上げているたこを見ていましたが、そのうち、お家へ入ってしまいました。
「秀夫くん、あとで、遊びにおいでよ。かるたとりするからね。」といって、賢二も、お家の中へ入ってゆきました。
 台所へくると、てんぴの焦げる臭いがしました。強いガスの火にかかっているからでした。そして、女中のきよが、いっしょうけんめいに鉄ざらの中へ卵を入れてかきまわしていました。ガリ、ガリ、ガリという音が、ほんとうに活動写真機をまわすときの音のようでした。
「お姉さん、また、カステラをこしらえるのかい?」と、賢二がききますと、女中のそばに立って、じっ…

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