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短く語る『本の未来』
みじかくかたる『ほんのみらい』
作品ID550
著者富田 倫生
文字遣い新字新仮名
底本 「讀賣新聞大阪本社版夕刊」 讀賣新聞大阪本社
1997(平成9)年6月10日~23日
初出「讀賣新聞大阪本社版夕刊」1997(平成9)年6月10日~23日
入力者富田倫生
校正者富田倫生
公開 / 更新1997-12-06 / 2014-09-17
長さの目安約 17 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

この小さな本の成り立ち
 一九九七年の二月、私はアスキーから『本の未来』を上梓した。

 松籟社という京都の学術出版社の相坂一さんが、この本を読んで、連絡をくれた。
「電子出版に興味を持っている知り合いの新聞記者に紹介したい」
 上京された際に待ち合わせ、長く話し込んで別れる間際、相坂さんはそう添えた。

 相坂さんの頭にあったのは、讀賣新聞大阪本社文化部の井上英司さんだった。
『本の未来』に加え、『パソコン創世記』も読んでくれた井上さんは、同紙の「潮音風声」という欄に、コラムを書かないかと誘ってくれた。

 井上さんは、私より少し若かった。
 神戸の甲陽学院高校では、アスキー社長の西和彦さんと同期だったという。高校時代から西さんは特異な才能を感じさせていたようで、「シルクスクリーンで玄人はだしのレコードジャケットをデザインしていた」ことが、井上さんには印象深かったらしい。
「出版とパソコンの双方に興味を持っている」という井上さん相手のやり取りはついつい弾んで、電話も長くなった。

 私たちが同じ病気を患っていたことも、二人の話を長引かせた。

 一つ一つはごく短かったが、コラムの原稿は連載で十本書くことになった。
 締め切りが近づくと、「会社だけでなく、自宅にもファックスしてほしい」と連絡が入った。
 体調が優れず、自宅療養と可能な限りの在宅勤務となるかも知れないと言う。

「面白く読んだ」というファックスは、自宅から届いた。
 途中まで井上さんが送ってくれたゲラが、終わりまぎわの数回分、別の人から送信されたのが気になった。

 最後の連絡を取り合ってから半年が過ぎた十一月二十九日、相坂さんから電話が入った。
 前日、井上さんが他界されたという。

 受話器を取ったときは、青空文庫のための文章を書いていた。
 あのコラムをまとめながら考えていたことを、形に変えたいと願って、私は文庫の試みに加わった。

「この文章を書き終えたら、井上さんが書かせてくれたあのコラムを、小さなブックにまとめよう」
 そんな思いが浮かんで、やっともう一度、キーボードに手をのせることができた。

 以下の原稿は、一九九七年六月十日から二十三日にかけて、讀賣新聞大阪本社版夕刊に掲載されたものである。
 執筆の機会を与えてくれたのは、丸い声でひょうひょうと話す、井上英司さんだった。


リターンマッチ
 絵本作家の長谷川集平さんから、突然メールが届いた。電子本について書いた、『本の未来』を読んでくれたという。

 紙の本を作ろうとすれば、印刷所の世話になるしかない。金がかかるし、まとめないと一冊が割高になる。それが電子本なら、自前のコンピューターで作れる。じゃんじゃんコピーして配れる。通信なら、どこにでもすぐに送れる。読むのにもマシンがいるが、なかなか面白い。

 七年ほど前、病気をし…

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