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真昼のお化け
まひるのおばけ |
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作品ID | 55006 |
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著者 | 小川 未明 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「定本小川未明童話全集 11」 講談社 1977(昭和52)年9月10日 |
初出 | 「お話の木」1937(昭和12)年8月 |
入力者 | 特定非営利活動法人はるかぜ |
校正者 | 酒井裕二 |
公開 / 更新 | 2017-07-27 / 2017-07-17 |
長さの目安 | 約 17 ページ(500字/頁で計算) |
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上
光一は、かぶとむしを捕ろうと思って、長いさおを持って、神社の境内にある、かしわの木の下へいってみました。けれど、もうだれか捕ってしまったのか、それとも、どこへか飛んでいっていないのか、ただ大きなすずめばちだけが二、三びき前後を警戒しながら、幹から流れ出る汁へ止まろうとしていました。しかたなく、鳥居のところまでもどってきて、ぼんやりとして立っていると、せみの声がうるさいほど、雨の降るように頭の上からきこえてくるのでした。そのとき、勇ちゃんが、あちらから駆けてきました。
「なにをしているのだい?」
「なんにもしていない。」
光一は、さびしく思っていたところで、お友だちをばうれしそうに迎えたのです。
勇吉は、並んで鳥居によりかかるとすぐに、問題を出して、
「長い足で歩いて、平たい足で泳いで、体を曲げて後ずさりするもの、なあんだ……。」と、光一に向かってききました。
「考えもの?」
「うううん、光ちゃんの知っているものだよ。」と、勇吉は笑いました。
「なんだろうな。」
光一は、しきりに考えていました。
かぶとむしではないし……。
「ああ、わかった。ばっただろう?」と、大きな声で答えました。
勇吉は、ちょっと目を光らして、頭をかしげたが、
「ちがうよ、ばったは、泳ぎはしないよ。」と、朗らかに、笑ったのです。
「僕、わからないから教えて。」
とうとう、光一は、降参しました。
「えびさ。きょう僕、学校で理料の時間にならったんだよ。光ちゃんもえびはよく知っているだろう。けれど、そう聞くと不思議と思わない? 僕、えびをおもしろいと思ったんだ。かぶとむしなんかより、えびのほうがずっとおもしろいと思ったんだよ。あした、川へびんどを持っていって、小さなえびを捕ってきて、びんの中へ入れてながめるのだ。」と、勇吉は、おもしろいことを発見したように、いいました。
学校では、一年上の勇吉のいうことが、なんとなく光一にまことらしく聞こえて、珍しいものに感じられました。自分も来年になれば、やはり理科で同じところを習うのだろう、そうしたら、かぶとむしよりもえびがおもしろくなり、えびよりはもっとおもしろいものがあることに気づくかもしれないと思いました。すると、急にこの大きな自然が、貴い、美しい、輝く御殿のごとく目の中に映ったのです。
「光ちゃん、僕、えびをとってきたら、どんなびんの中へ入れると思う? 僕すてきなことを発明したんだよ。君わからないだろう。」と、勇吉は、いいました。まったく、そんなことが、光一にわかろうはずがありませんでした。
むしろ、いろいろなことを知っている勇吉をうらやましそうに、光一は、だまって見つめていたのです。
「君、水族館で、お魚がガラスの箱の中を、泳ぐのを見たろう? 水草を分けて、ひらりひらりと尾を揺るがしたり、また、すうい、すういと小さなあわを口…