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明るすぎる月
あかるすぎるつき |
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作品ID | 55015 |
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著者 | 仲村 渠 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「沖縄文学全集 第1巻 詩Ⅰ」 国書刊行会 1991(平成3)年6月6日 |
入力者 | 坂本真一 |
校正者 | 良本典代 |
公開 / 更新 | 2017-05-24 / 2017-03-11 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
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――悪いことがなければよいが
電柱のとつさき、工夫が云ふ
ふん 今夜は誰も苦情は云ふまいて。十分そこらの停電はな。
窓ぎは。若い薬剤師が云ふ
やあ! まるで砂でも調合してるやうだよ。
この匙でね。
夜店。植木屋が云ふ
瓦斯を消しちまひな。もつたいない、そのかはり水をうんとやつておゝき。
解剖室。死体が云ふ
あんちきしよ 窓のカアテン引いとくのを忘れやがつて。
くそ! おれは明るいと風邪をひく。
製図室。半分出来た製図が云ふ
おいおいみんな 今夜はうちの主人をおどかしてやらうぞ。ちびの主人が帰つて来ぬうちにさあ。一二三!真白くなつておかうぞ。
温室。こまちやくれた花が云ふ
あたい今晩だけは夜露に打たれてみたいと思ふわ。
鏡屋。いつぱい並んだ鏡が云ふ
けッ! 鏡鏡鏡鏡鏡どうしの睨めッこか。
ああ 娘の頬ぺた。紅い椿が食べたいよ。
活動写真館。映写幕が云ふ
見物ひとり居ないのに 横ッ腹の窓から映つたりしやがつて。
それにちつとも面白くないやい!
洋服屋の飾窓。臘人形が云ふ
あらあらあら。あたいの躯がこんなに透いちやつて。
まあ花入り硝子!あたいの心臓。
玩具屋のガラス棚。ゴム人形が云ふ
僕嫌だい。空気なんか詰められるのはもう嫌だい。
よう お日さまの光が吸ひたいよう。
自動車陳列窓。青塗りのフオードが云ふ
諸君つくづく俺は後悔するんである。一匹の黄金虫に生れなかつたことを。空を翔べなくともだ、ああ今夜の街上に逃げられたら!
ガソリン供給箱。赤い喞筒が云ふ
あああああ
ガソリンは倦いたぞ倦いたぞ。
硝子製造所の高窓。長い硝子管が云ふ
チリリーン おお 月の光が身に沁むて。起きろい! フラスコ カツプ 花瓶も起きろ。
チアリリーン 月に浮かれて躍らうよ。
僕。ちつぽけなそいつが云ふ
いやだい はづかしい。
よせよ よせよ 恥しいつたら!
あッさうかい。そこで僕がお月さまから電柱を盾に取つて失敬したら、をつとこさ元気のよい噴水。