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山之口貘詩集
やまのくちばくししゅう
作品ID55053
著者山之口 貘
文字遣い旧字旧仮名
底本 「山之口貘詩集」 原書房
1958(昭和33)年7月15日
入力者kompass
校正者いとうおちゃ
公開 / 更新2020-07-19 / 2020-06-30
長さの目安約 43 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

喪のある景色


うしろを振りむくと
親である
親のうしろがその親である
その親のそのまたうしろがまたその親の親であるといふやうに
親の親の親ばつかりが
むかしの奧へとつづいてゐる
まへを見ると
まへは子である
子のまへはその子である
その子のそのまたまへはそのまた子の子であるといふやうに
子の子の子の子の子ばつかりが
空の彼方へ消えいるやうに
未來の涯へとつづいてゐる
こんな景色のなかに
神のバトンが落ちてゐる
血に染まつた地球が落ちてゐる
[#改見開き]

世はさまざま


人は米を食つてゐる
ぼくの名とおなじ名の
貘といふ獸は
夢を食ふといふ
羊は紙も食ひ
南京虫は血を吸ひにくる
人にはまた
人を食ひに來る人や人を食ひに出掛ける人もある
さうかとおもふと琉球には
う※[#小書き平仮名む、13-4]まあ木といふ木がある
木としての器量はよくないが詩人みたいな木なんだ
いつも墓場に立つてゐて
そこに來ては泣きくづれる
かなしい聲や涙で育つといふ
う※[#小書き平仮名む、13-9]まあ木といふ風變りな木もある
[#改見開き]




なんにもなかつた疊のうへに
いろんな物があらはれた
まるでこの世のいろんな姿の文字どもが
聲をかぎりに詩を呼び廻つて
白紙のうへにあらはれて來たやうに
血の出るやうな聲を張りあげては
結婚生活を呼び呼びして
をつとになつた僕があらはれた
女房になつた女があらはれた
桐の箪笥があらはれた
藥罐と
火鉢と
鏡臺があらはれた
お鍋や
食器が
あらはれた
[#改見開き]




炭屋にぼくは炭を買ひに行つた
炭屋のおやぢは炭がないと云ふ
少しでいいからゆづつてほしいと云ふと
あればとにかく少しもないと云ふ
ところが實はたつたいま炭の中から出て來たばつかりの
くろい手足と
くろい顔だ
それでも無ければそれはとにかくだが
なんとかならないもんかと試みても
どうにもしやうがないと云ふ
どうにもしやうのないおやじだ
まるで冬を邪魔するやうに
ないないばかりを繰り返しては
時勢のまんなかに立ちはだかつて来た
くろい手足と
くろい顔だ
[#改見開き]

思ひ出


枯芝みたいなそのあごひげよ
まがりくねつたその生き方よ
おもへば僕によく似た詩だ
るんぺんしては
本屋の荷造り人
るんぺんしては
煖房屋
るんぺんしては
お灸屋
るんぺんしては
おわい屋と
この世の鼻を小馬鹿にしたりこの世のこころを泥んこにしたりして
詩は
その日その日を生きながらへて來た
おもへば僕によく似た詩だ
やがてどこから見つけて來たものか
詩は結婚生活をくはへて來た
ああ
おもへばなにからなにまでも僕によく似た詩があるもんだ
ひとくちごとに光つては消えるせつないごはんの粒々のやうに
詩の唇に光つては消える
茨城生れの女房よ
沖繩生れの良人よ
[#改見開き]

結婚


詩は…

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