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新しい町
あたらしいまち
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 4」 講談社
1977(昭和52)年2月10日
初出「童話」1925(大正14)年11月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者へくしん
公開 / 更新2021-02-21 / 2021-01-27
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 あるところに、母と子と二人が貧しい暮らしをしていました。少年の名を幸三といいました。彼は、子供ながらに働いて、わずかに得た金で年老った母を養っているのでありました。
 彼は、朝は、早く勤めに出かけて、午後は、晩方おそくまで働いて、帰りには、どんなに母が待っていなさるだろうと思って、急いでくるのをつねとしていました。
 わざわいは、けっして、家を撰び、その人を撰ぶものではありません。母親は、病気にかかって、いままでのごとく、かいがいしく出かけてゆく我が子を見送り、また、晩方は、夕飯の仕度をして待つということができなくなりました。そして、母は、床についたのでありました。
 幸三は、どんなに心配したでありましょう。小さいときから、まごころのかぎりをつくして育ててもらった、なつかしい母を思い出して悲しまずにはいられませんでした。彼は、どうかして、はやく、母の病気をなおしたいと願いました。会社にいて働いている間も、たえず心は、家へひかれました。そして、社が退けると走るようにして帰り、母のそばにいったのであります。
 少年の思いは、とどかずにはやみませんでした。一時重かった、母の病気もおいおいにいいほうへと向かいましたけれど、衰弱しきったものはもとのごとく元気になるには、手間がとれたのであります。
 幸三のもらっている給金だけでは、思うように手当てもできなかったのです。彼は、それを考えると、悲しくなりました。
「自分は、どんなに、つらい働きをしてもいいから、どうかして、お母さんをはやくなおしてあげたいものだ。」と思いました。
 ある日の、もはや暮れ方のことであります。途すがら、少年は、暗い思いにふけって歩いてきました。
 そこは、つねに、車や、人の通りのはげしいところでした。空は、雲っていて、下の水の上には、荷を積んだ、幾そうかの船が、黒い影を乱していました。そして、雑沓する道からは、喧騒な叫びがあがり、ほこりが舞いたっていました。その間を少年は、とぼとぼ歩いてきたのです。
 彼は、橋の上にくるとしばらく、立ち止まって欄干によって、水の上をぼんやりとながめていました。
「思うように、親に、孝養をつくされる人はしあわせなものだ。」と、彼は思ったのでした。そして、目の中に、不しあわせな、貧しい、自分の母の姿を描いて、気の毒に思わずにはいられなかったのです。
 彼は、空想からさめて、ふと橋の欄干に目を落としますと、自分から、数歩隔たったと思われるところに、あまり目につかないほどの小さな紙きれがはってありました。そして、それには、
「悲しむものは、ガードについて南へゆけ。」と書いてありました。
 幸三は、これを見て、ガードの方を仰ぎますと、頭の上には、高架鉄道のレールが走っていて、長い堤がつづいていました。そして、堤の下には、穴倉のようになって、倉庫が並んでいました。
 彼は…

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