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小島の春
こじまのはる
作品ID55155
副題03 序
03 じょ
著者光田 健輔
文字遣い新字新仮名
底本 「[復刻版]小島の春」 長崎出版
2009(平成21)年5月30日
入力者岡山勝美
校正者Juki
公開 / 更新2015-01-01 / 2015-01-01
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 女医が癩救療に一地歩を築きたるは日本医学史に特筆すべき事実である。先づ服部けさ子女史の草津聖バルナバ医院における、余生において西原蕾、五十嵐正の二女史のごとき、大島に高橋竹代女史あり、我が愛生園にはさきに大西富美子女史あり、本篇の著者小川正子女史あり。皆一身を此事業になげうって悔なきの決心を有し、両親親戚の勧告に耳をもかさず、世人の批評に頓着なきの男まさりの徒である。彼女等の患者に接するや、診療の親切なるに加うるに女性の綿密を以てする。患者等は女史等を見るに慈母の愛と姉妹の親しみを感ずる。斯くして十年一日の如く容色の移るを顧みるに暇あらず、けだし癩に対する同情を禁ずる能わざるに出でしものにて、誠に救癩戦線に欠くべからざる存在と云うべきである。
 小川医官は昭和四年東京女子医専を卒業するや 直ちに全生病院に就職を志願されたそうである。私は女史を記憶しないけれども どの志願者にも云うごとく、親兄弟姉妹に相談して再考せられる事を勧告し、若し是非就職したいなら、二、三年大なる病院で内科でも外科でも実地を学び、市井に開業しても医として間に合う腕前を養成してきなさいと断ったそうである。それかあらぬか女史は大久保病院で細菌学及内科を、養育会で小児科を研究し、昭和七年再び手紙で就職を交渉せられたが医官満員で返事をしなかった。所が西原、五十嵐の両先輩から長島に行って直接談判をしなければ駄目であると教えられ、行李をまとめて長島にこられた。其時船越の桟橋から黒の袴をはいて沈み勝ちに上陸して女性は[#「上陸して女性は」はママ]、すっかり忘れておったが女史であった。無論患者は定員超過で困っていた時であったから医局で歓迎した。女史は熱心に内科の診療に従事して、診断正確治療綿密を以て同僚及患者から信頼せられた。
 本篇は診療の間を利し「つれづれの友となれ」という御歌の御心を畏みて土佐、徳島、岡山等各地の患家訪問の記録である。女史の臨床上にも一事をゆるがせにする事の出来ない特性は家庭訪問の上にも到る処に発揮せられている。即ち××島の患家訪問の序には附近の白砂、真釜島その他の癩の歴訪をも企て、瀬戸内海島々の浄化の端緒を開き、作北国境の癩をたづねては僅かの手がかりから頼まれもしない重症癩の住家に踏み込み、患者を死地より救い出し、土佐の癩をたづねては短時日の間に自転車の後ろに乗せてもらい、危険なる山坂を跋渉する等、顔を見ればやさしい女性であるが、やる事はやむにやまれぬ男まさりである。此頃大陸に銀翼を振う処の皇軍海陸の荒鷲が、武装都市を爆撃して世界の人心を驚嘆せしめているが、女史にして男であったなら、或は此の途を選んだかも知れない。しかし女性として救癩戦線に投じた愛の爆弾は高知、徳島、岡山、東京等の各地において不発に終った事はない。或は其地の有司を動かし、或は地方の有力者を動かし、十坪住宅の運動…

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