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虱とるひと
しらみとるひと |
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作品ID | 55200 |
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原題 | LES CHERCHEUSES DE POUX |
著者 | ランボー ジャン・ニコラ・アルチュール Ⓦ |
翻訳者 | 上田 敏 Ⓦ |
文字遣い | 旧字旧仮名 |
底本 |
「上田敏全訳詩集」 岩波文庫、岩波書店 1962(昭和37)年12月16日 |
初出 | 「女子文壇 五ノ六」1909(明治42)年5月1日 |
入力者 | 川山隆 |
校正者 | 岡村和彦 |
公開 / 更新 | 2012-12-18 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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むづがゆき額を赤めをさな兒は
それとなき夢の白き巣立をねがふ時、
爪しろがねに指細きふたりの姉は
たをやかに寢臺近く歩みよる。
青天の光、咲き亂れたる花に注ぐ
明け放ちたる窓のそばに幼兒を抱き行きて
露ふりかゝるその髮の毛のなかに
美しく、恐ろしく又心迷はする指は動きぬ。
ふたりの息のこわごわに出入るをきけば
花の如く、草木の如きかをりして、
又折節は喘ぐ聲。口に出づるを
嚥み込みし片唾の音か、接吻の熱き願か。
香よき寂寞のなか、二人の黒き睫は繁叩き
えれきの通ふ細指はうつらうつらと、
貴なる爪の下にこそぷつと虱をつぶしけれ。
時しもあれや、徒然の醉は稚き心に浮び、
狂ほしきハルモニカの吐息の如く
姉が靜かになづさはる其愛撫に小休なく
湧き出でゝまた消えはつるせつなき思。