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はくちょう |
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| 作品ID | 55204 |
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| 原題 | LE VIERGE |
| 著者 | マラルメ ステファヌ Ⓦ |
| 翻訳者 | 上田 敏 Ⓦ |
| 文字遣い | 旧字旧仮名 |
| 底本 |
「上田敏全訳詩集」 岩波文庫、岩波書店 1962(昭和37)年12月16日 |
| 初出 | 「三田文学 六ノ一二」1915(大正4)年12月 |
| 入力者 | 川山隆 |
| 校正者 | 岡村和彦 |
| 公開 / 更新 | 2012-12-30 / 2014-09-16 |
| 長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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純潔にして生氣あり、はた美はしき「けふ」の日よ、
勢猛き鼓翼の一搏に碎き裂くべきか、
かの無慈悲なる湖水の厚氷、
飛び去りえざりける羽影の透きて見ゆるその厚氷を。
この時、白鳥は過ぎし日をおもひめぐらしぬ。
さしも榮多かりしわが世のなれる果の身は、
今こゝを脱れむ術も無し、まことの命ある天上のことわざを
歌はざりし咎か、實なき冬の日にも愁は照りしかど。
かつて、みそらの榮を忘じたる科によりて、
永く負されたる白妙の苦悶より白鳥の
頸は脱れつべし、地、その翼を放たじ。
徒にその清き光をこゝに託したる影ばかりの身よ、
已むなくて、白眼に世を見下げたる冷き夢の中に住して、
益も無き流竄の日に白鳥はたゞ侮蔑の衣を纏ふ。