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錬金道士
れんきんどうし |
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作品ID | 55207 |
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原題 | L'ALCHIMISTE |
著者 | ベルトラン ルイ Ⓦ |
翻訳者 | 上田 敏 Ⓦ |
文字遣い | 旧字旧仮名 |
底本 |
「上田敏全訳詩集」 岩波文庫、岩波書店 1962(昭和37)年12月16日 |
初出 | 「アルス 二号」1915(大正4)年5月 |
入力者 | 川山隆 |
校正者 | 岡村和彦 |
公開 / 更新 | 2012-12-12 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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吾徒の術を修する法二あり。一は師に就いて口より口へ授かり、はたまた悟徹と示現とによつて過を知らんとす。また一の法は斯道の書を讀むにあれど、其文難解にして頗る晦澁なれば、人もしここに理と眞とを求めんとすれば、其心まづ精緻にして根氣よく勤勉にして且つ細心ならざる可からず。
ピエロ・[#挿絵]コ「哲學奧義解」
まだいかぬ――而もわが身は三日三晩のその間、燈火の薄暗い光のもとにライムンド・ルルリの祕法書を繙いてゐた。
どうもいかぬ、唯ちらちらする蘭引の滾る音につれて、火蛇の精の嘲笑が聞えるばかり。彼はわが冥想を亂さうとして戯弄するのか。
或時は彼、わが鬚の中に爆發物を仕掛け、また或時は其弩よりして、わが上衣の上に火矢を放つ。
また彼が其武具を磨き立ててゐる時は、爐の下の灰が、呪文書の紙の上、机に載せた墨汁の中に吹きつけて來る。
その時蘭引はいよいよ、ちらついてきて、滾り嘯く其聲は、聖エロイ樣の火箸で鼻を撮まれた鬼の泣聲によく似てゐる。
然しまだいかぬ――そしてわが身はもう三日三晩のその間、燈火の薄暗い光のもとにライムンド・ルルリの祕法書を繙いてゐよう。