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びるぜん祈祷
びるぜんきとう |
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作品ID | 55225 |
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著者 | ダンテ アリギエリ Ⓦ |
翻訳者 | 上田 敏 Ⓦ |
文字遣い | 旧字旧仮名 |
底本 |
「上田敏全訳詩集」 岩波文庫、岩波書店 1962(昭和37)年12月16日 |
初出 | 「心の花 五ノ一」1902(明治35)年1月 |
入力者 | 川山隆 |
校正者 | 成宮佐知子 |
公開 / 更新 | 2012-11-29 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
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母なるをとめ、わが子のむすめ、
賤しくして、また、なによりも尊く、
永遠の謀のさだかなるめあて、
君こそは人性を尊からしむれ、
物みなの造りぬしも、
其造りなるを卑まざりき。
その胎に照りたる愛は、
この花をとこ世に靜けく、
温め生ふし開き給ひぬ。
ここにゐては愛の央の松あかし。
下界人間に雜はりては、望の生ける泉なり。
大なる哉、徳ある哉、われらの君よ、
恩寵をえまくほりする者、
君の御前にまだ來ぬは、
その願ひ翼なくして飛ぶを思ふや。
御慈悲は、願ひ人を助くるのみならず、
おのづから願に先だつこと多かり。
君に憐、君に悲、君に惠、
造化のよしといふよき物は君に集ひぬ。
茲に今、宇宙の池のいと深き底より、
この天堂にしも、また昇り、
靈のひとつびとつを眺むるもの、
伏して願はくは、終の福にむかひ、
眼うち仰ぎ得むことを祈る。
今彼の眺を望むばかり、
己が眺を望む時にも切ならざりし吾。
茲に一切の祈を捧げて、
足らざること勿れと念ず。
君よ、人間の迷雲を此人より拂ひて、
至上の悦をえさせたまへ。
重ねて祈り申さく
思のまゝのなべてを行ふ后の宮よ、
かゝる大觀の後までも、
かれが心をそこなはず、
君の護のあるが故に、
人間の混亂を滅ぼし給へ。
わが祈に添ひてベアトリチエと諸聖と、
合掌祈念するをも、うけさせ給へや。