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川端茅舎句集
かわばたぼうしゃくしゅう |
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作品ID | 55239 |
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副題 | 02 川端茅舎句集 02 かわばたぼうしゃくしゅう |
著者 | 川端 茅舎 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「現代日本文學大系 95 現代句集」 筑摩書房 1973(昭和48)年9月25日 |
入力者 | kompass |
校正者 | 鴨川佳一郎 |
公開 / 更新 | 2018-07-17 / 2018-06-27 |
長さの目安 | 約 10 ページ(500字/頁で計算) |
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序
茅舎句集が出るといふ話をきいた時分に、私は非常に嬉しく思つた。親しい俳友の句集が出るといふ事は誰の句集であつても喜ばしいことに思へるのであるけれども、わけても茅舎句集の出るといふことを聞いた時は最も喜びを感じたのである。それはどうしてであるかといふ事は自分でもはつきり判らない。
茅舎君は嘗ても言つたやうに、常にその病苦と闘つて居ながら少しもその病苦を人に訴へない人である。生きんが為の一念の力は、天柱地軸と共に、よく天を支へ地を支へ茅舎君の生命をも支へ得る測り知られぬ大きな力である。
茅舎君は真勇の人であると思ふ。自分の信ずるところによつて急がず騒がず行動してをる。
茅舎君は雲や露や石などに生命を見出すばかりでなく、鳶や蝸牛などにも人性を見出す人である。
露の句を巻頭にして爰に収録されてゐる句は悉く飛び散る露の真玉の相触れて鳴るやうな句許りである。
昭和九年九月十一日
ホトトギス発行所
高浜虚子
秋
露径深う世を待つ弥勒尊
夜店はや露の西国立志編
露散るや提灯の字のこんばんは
巌隠れ露の湯壺に小提灯
夜泣する伏屋は露の堤陰
親不知はえたる露の身そらかな
白露に阿吽の旭さしにけり
白露に金銀の蠅とびにけり
露の玉百千万も葎かな
ひろ/″\と露曼陀羅の芭蕉かな
白露をはじきとばせる小指かな
白露に乞食煙草ふかしけり
桔梗の露きび/\とありにけり
桔梗の七宝の露欠けにけり
白露に鏡のごとき御空かな
金剛の露ひとつぶや石の上
一聯の露りん/\と糸芒
露の玉蟻たぢ/\となりにけり
就中百姓に露凝ることよ
白露の漣立ちぬ日天子
玉芒みだれて露を凝らしけり
玉芒ぎざ/\の露ながれけり
白露に薄薔薇色の土龍の掌
白露が眩ゆき土龍可愛らし
日輪に露に土龍は掌を合せ
露の玉ころがり土龍ひつこんだり
秋暑し榎枯れたる一里塚
新涼や白きてのひらあしのうら
そこはかと茶の間の客や秋の暮
塔頭の鐘まち/\や秋の雨
秋風や薄情にしてホ句つくる
秋風や袂の玉はナフタリン
めの字絵馬堂一面に秋晴るゝ
ちら/\と眼に金神や秋の風
二三点灯りし森へ月の道
この頃や寝る時月の手水鉢
僧酔うて友の頭撫づる月の縁
和尚また徳利さげくる月の庭
月明し煙うづまく瓦竈
葛飾の月の田圃を終列車
月の道踏み申す師の影法師
森を出て花嫁来るよ月の道
筏衆ぬる温泉に月の夜をあかす
釣人に鼠あらはれ夕月夜
明月や碁盤の如き珠数屋町
葭切の静まり果てし良夜かな
白樺の霧にひゞける華厳かな
牛乳を呼ぶ夜霧の駅は軽井沢
観世音おはす花野の十字路
釣人のちらりほらりと花野道
釣針をひさぐ一つ家花野道
秋の水湛へし下に湯壺かな
頬白や雫し晴るゝ夕庇
頬白やひとこぼれして散り/\に
露の玉大きうなりぬ鵙猛る
猛り鵙ひう/\空へ飛べりけり
御空より発止と鵙や菊日和
下り鮎一聯過ぎぬ薊かげ
蜩や早鼠つく御仏飯
蜩に…