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獄中通信
ごくちゅうつうしん
作品ID55292
著者戸坂 潤
文字遣い新字新仮名
底本 「戸坂潤全集 別巻」 勁草書房
1979(昭和54)年11月20日
初出「人民評論」1945(昭和20)年12月号
入力者矢野正人
校正者Juki
公開 / 更新2012-08-05 / 2014-09-16
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 戸坂嵐子殿(十九年十二月十二日朝)
 八日に手紙六通(老人3嵐子2イク子1)入手、進学の件など明らかとなり安心。――昭和の高等学院が第二次なら第三次を何でもよいから一つ選べ、もし第三次なら第二次に然るべきものがあったら出すこと。日本女大必ずしも毛ぎらいすべからず。
 明大の女専には文科はないか(庸之君にでも聞くこと)。東女大の平野智治夫人其他の諸夫人、日女大の菅支那子夫人などをキオクすべし。――明星で東女大に競争がないと赤井さんの云ったというのは本当か?――海へ、仮名を読本にある通り正確に、又漢字は間違わぬよう、自分で読み直す習慣を厳重に申し送るべし。――面会は警報等の関係もあり、あまり月末におしつまるとチャンスを失う恐れあり。――次のアドレス一目瞭然たるように知らせてほしい。大阪、松井、函館、伊藤長夫自宅。なお大阪、川崎、松井、函館には僕の現住所を知らせておくこと必要。寒さ加わるが大分身体はなれて来た。正月には早めに葉書を出そう。海達を見て来たら手紙でイサイ報告のこと。

 戸坂嵐子殿外御一同(昭和二十年一月八日朝)
 このハガキ、ホゾンのこと。今年は去年よりも良い年であるように。松の内もすぎたが、年頭に際し、お父さんの九月来の勉強の報告をしておこう。専ら仏教の勉強だ。仏教関係の書物二十五冊以上、内、国訳一切経十四冊(阿含経10、四分律4)、諦観の「天台四教儀」(織田の「和解」による。なお蒙潤の「集註」あり)などもあり渡辺楳雄「小乗仏教」、ピ・ラクシュミ・ナラス「仏教の要諦」(立花訳)、ポール・ケーラス「仏陀の福音」(八幡訳)などは好著。旧新約聖書(明治二十五年版)などを通読。総計一万二千頁以上になろう。――さてここでは餅にミカン、黒豆、数の子(一片)、生揚げ、昆布、鱈、白米、煮豆、人参、大根、葱、年越ソバ(十数本)などで大晦日から三ヵ日をすごした。まず無事に歳を取ったというもの。家のお正月は如何。嵐子及び月子の誕生祝は如何。――口頭試問の用意に、お父さんの職業は判っていても業態の説明が出来ぬと閉るから、おバアチャンやお母さんによく聴いておくこと。一月の面会、引越し後に無駄足をしてもいいだけの時間の余裕を見た方がよかろう。――東亜文化協会から通信あり成功をよろこんでいる。

 戸坂嵐子殿(二月九日朝)
 吉報*(嵐子及び母さん)見た。お父さんは本当に嬉しい。一陽来福の感だ。之も僥倖と人々のおかげであること、幸ちゃんと同断である。お祝いの格好をした御馳走(ムシパンのクリスマスケーキ、同じく鯛ヤキなど如何?)してお貰いなさい。――今後は一人前の大人としての待遇を受けることになるから、対家庭対社会上の責任を自覚して、健康と性格とに自分で向上を心がけること。処で勉強の方、三月一日から毎日一時間前後(長いのは無効)ラムのシェクスピアを自分で工夫憶測しながら文脈を理…

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