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夜に就て
よるについて
著者立原 道造
文字遣い旧字旧仮名
底本 「立原道造全集 第3卷 物語」 角川書店
1971(昭和46)年8月15日
初出「椎の木 第5巻第2号」1936(昭和11)年2月号
入力者八八十零
校正者村並秀昭
公開 / 更新2019-07-30 / 2019-06-28
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

[#挿絵]

 凡そ人は夢のなかに氣ままにしのびいることの出來ないたちのものである。それは夢といふものが、シヤボン玉に似て、無理になかへおしこまうとするとやぶれてしまふからである。
 ところが、ゴンゴンといふ者には、その不思議が出來た。
 これは、彼の夢物語であるが、それを諸君にお傳へしよう。

 A――
 それは、にぎやかな町であつた。多分、夕方であつたのであらう。靄のやうなものがうつすら流れてゐた。ゴンゴンは、とある横町に一軒のサアカス小屋をみつけたのである。
 その看板には、ごくうすい色で、栗毛の馬に乘つたふたりの少女の圖が描いてあつた。その少女たちは、いづれもポツリとした瞳を持つて居り、水色の上衣を着てゐた。
 そこで、ゴンゴンはその小屋へはいつた。
 なかは、人混みで、人の空氣のために、最初はつきりものが見えなかつた。

 目が馴れると、舞臺では、一種の舞踊が行はれてゐた。それといふのは、ひとりの踊り子が片方の手と足と目をめちやくちやに速く動かし、もう片方の手と足と目はぽかんとしてゐるといつた具合に、それも手を交へながら、空中で踊つてゐた。實に奇妙であつた。カンカン踊りといふものがあるときいたが、これは半分づつのカンカン踊りともいふのであらう。
 勿論、それを見るや、ゴンゴンはふきだしてしまつたのである。

 B――
 或る日、ゴンゴンはひとりの神さまに出會つた。そこで、ふだんから不思議に思つてゐたから、[#挿絵]なぜ雲を作るんですか?[#挿絵]と尋ねると、神さまはそれには答へないで、そのかはりにゴンゴンの目の前で雲を作つてみせて下さつた。それはたいへんうつくしいうろこ雲であつた。さうして、よく見ると、その小さな一片一片には、可愛らしい少女が乘つてゐたのである。

 C――
 ゴンゴンが、町を歩いてゐたら、白い雲が、頭のうへを飛んで行つた。
 暫くすると、大きな音がポンポンとして、四つ角に人がもう大勢あつまつてゐる。かきわけてゆくと、なアんだ――今の雲が、粉々になつて、そこに散らばつてゐた。

 僕は、ゴンゴンの服裝のことをまだ一言も言つてゐなかつた。――彼は、いつも赤いチヨツキを着て、青い帽子をかぶつてゐるのである。

 或るとき、彼は谷川の水のところに下りて行つた。水をのまうとしたのである。すると、彼とおなじ姿の者がそこにもうひとり居るのであつた。驚いてよく見ると、その人も青い帽子をかぶり赤いチヨツキを着てゐた。
 これは不思議なことだつた。その人の頭の下には白い雲が流れてゐる。で、ゴンゴンはキヨトンとした顏で空を振り仰いだ。すると彼の頭のうへにも白い雲が浮いてゐるではないか。
 ゴンゴンは、突然ほほゑんでしまつて、[#挿絵]それでいいんだな[#挿絵]と、呟いた。しかし、彼にはどうしても上と下の具合がよくわからなかつたのである。

 以上は、ゴ…

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