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![]() だんちょうていにちじょう |
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作品ID | 55302 |
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副題 | 06 断腸亭日記巻之五大正十年歳次辛酉 06 だんちょうていにっきまきのごたいしょうじゅうねんさいじかのととり |
著者 | 永井 荷風 Ⓦ / 永井 壮吉 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「荷風全集 第二十一巻」 岩波書店 1993(平成5)年6月25日 |
入力者 | 米田 |
校正者 | 小林繁雄 |
公開 / 更新 | 2013-08-11 / 2022-09-22 |
長さの目安 | 約 30 ページ(500字/頁で計算) |
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荷風年四十三
正月元日。くもりて寒し。雪猶降り足らぬ空模様なり。腹具合よろしからず。炉辺に机を移して旧年の稿をつぐ。深更に至り雨降る。
正月二日。雨歇まず門前年賀の客なく静間喜ふべし。夜風あり。
正月三日。朝の中薄く晴れしが午後また雨となる。炉辺執筆前日の如し。浴後独酌。早く寝に就く。
正月四日。晴れて暖なり。銀座を歩む。
正月五日。去年十月中起稾せし雨瀟瀟、始めて脱稿。直に浄写す。
正月六日。九穂子と風月堂に飲む。此日寒の入りなれど暖なり。
正月七日。几上の水仙花開き尽しぬ。過日松莚子より依頼の脚本筆取るべきやいかゞせむと思ひわづらふ。
正月八日。二階押入の壁を張る。
正月九日。日曜日。机に凭ること前日の如し。冬の日少しく長くなりぬ。
正月十日。晴。
正月十一日。微雨。晩に晴る。
正月十二日。春陽堂の人来り全集第二巻五版の検印を求む。
正月十三日。木曜会運座。曇りて寒し。
正月十四日。雨。
正月十五日。仏蘭西新画家制品展覧会、三越楼上に開かる。銅板山水一葉。パステル裸体図一葉を購ふ。
正月十六日。脚本執筆。
正月十七日。植木阪より狸穴に出で赤羽根橋を渡る。麻布阪道の散歩甚興あり。三田通にて花を購ひ帰る。
正月十八日。不願醒客来訪。
正月十九日。夜雨ふる。脚本の稿を脱す。題して夜網誰白魚といふ。
正月二十日。木曜会に徃く。来会者少し。
正月廿一日。晴れてあたゝかなり。夜風吹出でしが月光満楼。燈火なきも枕上猶書をよみ得べし。
正月廿二日。
正月廿三日。毎夜寒月昼の如し。
正月廿四日。九穂子と牛門に飲む。
正月廿五日。正午松莚子に招かれて日本橋末広に飲む。
正月廿六日。諸方より依頼の短冊に揮毫し纔に責を果す。
正月廿七日。木曜会なり。
正月卅一日。拙作脚本の事につき松莚子岡氏等と竈河岸の八新に会す。小山内君亦来る。
二月朔。今年は大寒に入りてより益暖なり。鄰家の冬至梅既に満開なり。
二月二日。温暖頭痛を覚るばかりなり。全集第五巻校正甚多忙。夜に至りて俄に寒し。
二月三日。雪ふる。
二月四日。立春。
二月五日。雪後天気あたゝかなり。
二月六日。フランスの小説イストワル・コミツクを読む。
二月七日。偏奇館漫録を春陽堂に郵送す。
二月八日。春寒甚し。
二月九日。微恙あり。
二月十日。風邪。門を掩て出でず。
二月十一日。風邪痊えず。細雨残雪に滴る。庭上の光景甚荒涼。
二月十二日。雨歇まず。
二月十三日。晴。
二月十四日。松竹社七草会例会。正午地震。
二月十五日。風労猶痊えず。
二月十六日。雪まじりの雨なり。
二月十七日。木曜会。
二月十八日。午後三才社に徃かむとせしが風塵甚しければ虎の門より帰る。
二月十九日。晴れて暖なり。我善坊谷上、宮内省御用邸裏の石垣、東向きにて日あたり好く石垣の間より菫蒲英公[#「蒲英公」はママ]の花さき出でたり。仙石山を過ぎ電車に乗りて神田小…