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ジェミイの冐険
じぇみいのぼうけん
作品ID55307
著者片山 広子
文字遣い新字新仮名
底本 「世界の子供」 世界文学社
1949(昭和24)年8月
入力者匿名
校正者館野浩美
公開 / 更新2018-03-19 / 2018-03-10
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 むかし、ファネットの田舍に、ジェミイ・フリールという青年が母と二人でくらしていた。後家である母はむすこだけをたよりにしていた。むすこはその頼もしいうでで母のため一生けん命働らき、毎土曜日の夜になると、かせぎためた金を母の手にそっくり渡してじぶんは半ペニイのお小づかいをありがたくいただいているのだった。こんな孝行むすこはひろい世間にも二人とはいないと近所の人たちからほめられていたが、ほかにもジェミイのことをよく知っている人たちがいるのだった。それはかれが見たこともない、五月祭の前夜か萬聖節の時でなければ人間の眼には見られない人たち、つまり妖精たちである。
 ジェミイの家からすぐ近くに、くずれかけた古いしろがあって、「小さい人たち」すなわち妖精の住家だといわれていた。毎年萬聖節の前夜になると、古い窓には明るく燈火がついて、しろの中をあそびまわる妖精たちの小さいすがたが道ゆくものにもよく見えて、パイプや笛の音も聞えてきた。それが妖精たちのえん会なのはみんなが知っていたけれどだれもその席にはいって行く勇氣はなかった。ジェミイは遠くから小さい人たちのすがたをながめ、美しい音樂をきいてしろの内部はどんなようすだろうと考えてみたりしたが、ある萬聖節の前夜、かれはぼうしを手にして母にいった。
「母さん、ぼくはいい運をさがしに、おしろにいってみます。」
 母はおどろいて、おしろにどんなこわいことがあるかもしれないととめたけれど、だいじょうぶ、すぐ帰ってきますといってでていった。
 いも畑をつっきると、もうそこにしろが見えた。窓々にはあかあかと燈火がついて、夜の林の木々にまつわるかれ葉も黄ろく金いろに見えていた。木立のかげにたってジェミイは妖精たちのえん会さわぎをきいていると、わらい声や歌の声がかれをさそいこむのだった。小人たちの一ばん大きいのも五つ位の子どもの大きさで、小さいみんなが笛や胡弓の調子にあわせておどっている。おどっていないものは飮んだり食べたりしているのだった。
 小人たちは新しいお客を見ると、みんながよんだ。「ようこそ、ジェミイ・フリール! ようこそ、ようこそ!」このようこその声が傳わってしろじゅうのみんなが「ようこそ」といいあった。
 時間がたって、ジェミイはゆ快になっていると、主人がわの妖精がいった。「われわれは今夜ダブリンまで遠乗りして、おじょうさんを一人ぬすんでこようと思うんだ。一しょにゆかないか、ジェミイ・フリール?」
「うん、ゆくよ。」
 数頭の馬が入口にたっていて、その一つに乗ると、馬はすうっと空中にとび上り、妖精たちの一隊と一しょにもうすぐジェミイの母の家の上をとびこえて、高い山や低い山もどんどんとびこえ、深い湖もこえて、町々や村々の上をとんで行った。地上の人たちはたのしい萬聖節のお祝いにたき火で「くるみ」を燒いたり、林ごをたべたりしているのだ…

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