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鮪に鰯
まぐろにいわし
作品ID55317
著者山之口 貘
文字遣い新字新仮名
底本 「山之口貘詩集 鮪に鰯」 原書房
1964(昭和39)年12月10日
入力者kompass
校正者いとうおちゃ
公開 / 更新2020-09-11 / 2020-08-30
長さの目安約 58 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

野次馬

これはおどろいたこの家にも
テレビがあったのかいと来たのだが
食うのがやっとの家にだって
テレビはあって結構じゃないかと言うと
貰ったのかいそれとも
買ったのかいと首をかしげるのだ
どちらにしても勝手じゃないかと言うと
買ったのではないだろう
貰ったのだろうと言うわけなのだが
いかにもそれは真実その通りなのだが
おしつけられては腹立たしくて
余計なお世話をするものだと言うと
またしてもどこ吹く風なのか
まさかこれではあるまいと来て
物を掴むしぐさをしてみせるのだ
[#改ページ]

ひそかな対決

ぱあではないかとぼくのことを
こともあろうに精神科の
著名なある医学博士が言ったとか
たった一篇ぐらいの詩をつくるのに
一〇〇枚二〇〇枚だのと
原稿用紙を屑にして積み重ねる詩人なのでは
ぱあではないかと言ったとか
ある日ある所でその博士に
はじめてぼくがお目にかかったところ
お名前はかねがね
存じ上げていましたとかで
このごろどうです
詩はいかがですかと来たのだ
いかにもとぼけたことを言うもので
ぱあにしてはどこか
正気にでも見える詩人なのか
お目にかかったついでにひとつ
博士の診断を受けてみるかと
ぼくはおもわぬのでもなかったのだが
お邪魔しましたと腰をあげたのだ
[#改ページ]

弾を浴びた島

島の土を踏んだとたんに
ガンジューイ(1)とあいさつしたところ
はいおかげさまで元気ですとか言って
島の人は日本語で来たのだ
郷愁はいささか戸惑いしてしまって
ウチナーグチマディン ムル(2)
イクサニ サッタルバスイ(3)と言うと
島の人は苦笑したのだが
沖縄語は上手ですねと来たのだ

(1) お元気か
(2) 沖縄方言までもすべて
(3) 戦争でやられたのか
[#改ページ]

桃の花

いなかはどこだと
おともだちからきかれて
ミミコは返事にこまったと言うのだ
こまることなどないじゃないか
沖縄じゃないかと言うと
沖縄はパパのいなかで
茨城がママのいなかで
ミミコは東京でみんなまちまちと言うのだ
それでなんと答えたのだときくと
パパは沖縄で
ママが茨城で
ミミコは東京と答えたのだと言うと
一ぷくつけて
ぶらりと表へ出たら
桃の花が咲いていた
[#改ページ]



もうお年ですからと言えば
なにをこの青二才がと
老人は怒ってしまったのだが
年甲斐もない顔をしてまで
握っていたいもの
それはつまり若さなのだ
[#改ページ]

首をのばして

出版記念会と来ると
首をすくめてそれを見送り
歓送会と来ると
首をすくめてそれを見送り
祝賀会と来ると
首をすくめてそれを見送り
歓迎会と来ると
首をすくめてそれを見送り
会あるたんびに
首をすくめては
いろんな会を見送って来た
ある日またかとおもって
首をすくめていると
いいえお顔だけで結構なんです
会費の御心配など

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